48 / 63
第48話
三日後、ある一人の男が重要参考人として浮かび上がった。三笠としてはもっと早く特定したかったが、上手くいかなかったのだ。
重要参考人は二十三歳の男で、コンビニでバイトをしているらしい。
身柄を確保するため、三笠のチームは皆で男の住むアパートの前で待ち構えていた。時間は、男がバイトから帰ってくる早朝の五時だ。
バイト帰りの男を狙い、確保する手筈になっている。
こうした時には緊張するもので、ふと横を見ると蒼空も緊張しているようだ。
「大丈夫だよ。落ち着いて」
そらは蒼空に向けた言葉だったが、自分自身に言い聞かせる意味もあった。
「はい」
蒼空は表情をより引き締めて頷いた。
するとその時、待っていた男が姿を現した。
三笠たちはアパートの塀に隠れていたが、男はそれに気付くともと来た方向に逃げていく。
しかしそれは、三笠らの想定内だ。逃げられたら、足の速い蒼空が真っ先に追いかけることになっていた。
蒼空は男が逃げたのを合図に駆け出した。男には追い着いたが、抵抗され暴れる相手と格闘することになる。そして三笠らが追い着こうという時に、男が蒼空にぶつかった次の瞬間、ドサっと蒼空が倒れた。
「川上!!」
チームが皆駆け寄り、三笠が蒼空を抱き起こした。そうしてる間に追っている男が逃げていくので、他のメンバーたちは男を追いかけた。
「おいっ!しっかりしろ!!」
思わず、普段は使わないような言葉遣いになる。蒼空の腹部から、多量の血が出ていたからだ。近くには、血が付いた刃渡り十センチ程度のナイフが転がっていた。
「三笠……さん……」
蒼空が薄っすらと目を開けた。しかし表情は苦痛に歪んでいる。
「い、痛い……」
「今救急車呼ぶから、耐えてくれよ」
三笠の言葉に、蒼空は弱くコクリと頷いた。
救急車を待つ僅かな間に、雪田から男を確保したと連絡があった。
蒼空を刺した後、追い掛けた佐藤に取り押さえられたのだという。
その後、三笠は蒼空に付き添い救急車に乗った。出血が多く心配だ。
病院で治療を受けた蒼空は、入院することになった。
「ごめんなさい……迷惑かけて……」
「大丈夫だよ。佐藤さんが捕まえてくれたし。気にしないで」
「まさか……ナイフを持っているとな思いませんでした……」
蒼空は心底悔しそうだ。
「まさかのことが起こるもんだ。常に用心しておいた方がいいな」
「はい。気を付けます」
「君が助かって良かったよ。本当に……びっくりした」
「三笠さんを置いて、早く死ねませんね」
蒼空が手を伸ばし三笠の方に近付けてきた。
「当たり前だ……」
三笠が蒼空の手を取ると、彼は弱く微笑んだ。
「早く良くなって……」
「はい……」
三笠は蒼空の手の甲に唇を落とした。
その後、三笠は署に戻った。蒼空の傍にいたかったが、仕方ない。
ともだちにシェアしよう!