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第57話
「花田香織さんのバッグ、本人のだって識別する方法ってないものかな」
署に戻った三笠は、ふと疑問を漏らした。
「それなら、確か......ブランド物って型番や品番があるんじゃなかったでしたっけ?」
「そうか!それが分かればもしかしたら取り戻せるかもしれない!」
早速、三笠は花田香織に電話をかけた。
「犯人が捕まりました」
『え、本当ですか?』
「はい。バッグの方は、犯人が売り払ったという店舗を聞き出したのですが、バッグの型番や品番は分かりますか?」
『バッグの箱に、ナンバーが書かれているカードが入っているはずなので調べてみます。折り返しますね』
「分かりました。どうぞよろしくお願いします」
電話を切ってから十分後に花田香織から再度電話があり、奪われたバッグの型番と品番が判明した。
その後に花田香織を伴い三人で質屋を訪れ、バッグを無事に取り返した。若い男が女性もののバッグを持ってきたため、不審に思った質屋の店員が売らずに保管していたのだ。店主は警察に連絡をせずに申し訳ないと恐縮していたが、事件に絡んだ物品であると気付くことは難しかっただろう。
彼女を再び自宅まで送り届けると、三笠たちにお茶を入れてくれた。
「すみません、いただきます」
ぺこりとお辞儀をして、ソファーに座る三笠と蒼空はお茶を啜(すす)る。
「いえ。バッグの件、ありがとうございます。取り敢えずは中身も戻ってきたので、安心しました」
「本当に良かったですね」
「はい。実はこのバッグ、大切な彼からもらったものなんです」
そう話す彼女の表情は、どこか懐かしんでいるようだった。
「そうだったんですか」
「えぇ。二年前の私の誕生日にくれたんですよ。彼は建設作業員だったんですけど、その年のクリスマスイブに作業中の事故で亡くなりました」
三笠も事故のニュースを見た記憶があることを思い出した。あの時の被害者が、花田香織の恋人だったというのか。
「すみません、刑事さんにこんな話をして。とても大事なバッグだったので、戻ってきて嬉しかったんです」
「いいえ、お気持ちは分かります。あなたの元にお返しするまで時間がかかってしまい、本当に申し訳ありません」
三笠がそう言うと、蒼空も一緒に頭を下げた。
「いいんですよ。ちゃんと戻ってきただけで有難いですから。これでやっと、彼にも良い報告ができそうです」
「それなら良かったです。これからも、大事になさってくださいね」
ようやく事件が解決し、三笠と蒼空はホッとした思いで署に戻った。
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