57 / 63

第57話

「花田香織さんのバッグ、本人のだって識別する方法ってないものかな」  署に戻った三笠は、ふと疑問を漏らした。 「それなら、確か......ブランド物って型番や品番があるんじゃなかったでしたっけ?」 「そうか!それが分かればもしかしたら取り戻せるかもしれない!」  早速、三笠は花田香織に電話をかけた。 「犯人が捕まりました」 『え、本当ですか?』 「はい。バッグの方は、犯人が売り払ったという店舗を聞き出したのですが、バッグの型番や品番は分かりますか?」 『バッグの箱に、ナンバーが書かれているカードが入っているはずなので調べてみます。折り返しますね』 「分かりました。どうぞよろしくお願いします」  電話を切ってから十分後に花田香織から再度電話があり、奪われたバッグの型番と品番が判明した。  その後に花田香織を伴い三人で質屋を訪れ、バッグを無事に取り返した。若い男が女性もののバッグを持ってきたため、不審に思った質屋の店員が売らずに保管していたのだ。店主は警察に連絡をせずに申し訳ないと恐縮していたが、事件に絡んだ物品であると気付くことは難しかっただろう。  彼女を再び自宅まで送り届けると、三笠たちにお茶を入れてくれた。 「すみません、いただきます」  ぺこりとお辞儀をして、ソファーに座る三笠と蒼空はお茶を啜(すす)る。 「いえ。バッグの件、ありがとうございます。取り敢えずは中身も戻ってきたので、安心しました」 「本当に良かったですね」 「はい。実はこのバッグ、大切な彼からもらったものなんです」  そう話す彼女の表情は、どこか懐かしんでいるようだった。 「そうだったんですか」 「えぇ。二年前の私の誕生日にくれたんですよ。彼は建設作業員だったんですけど、その年のクリスマスイブに作業中の事故で亡くなりました」  三笠も事故のニュースを見た記憶があることを思い出した。あの時の被害者が、花田香織の恋人だったというのか。 「すみません、刑事さんにこんな話をして。とても大事なバッグだったので、戻ってきて嬉しかったんです」 「いいえ、お気持ちは分かります。あなたの元にお返しするまで時間がかかってしまい、本当に申し訳ありません」  三笠がそう言うと、蒼空も一緒に頭を下げた。 「いいんですよ。ちゃんと戻ってきただけで有難いですから。これでやっと、彼にも良い報告ができそうです」 「それなら良かったです。これからも、大事になさってくださいね」  ようやく事件が解決し、三笠と蒼空はホッとした思いで署に戻った。

ともだちにシェアしよう!