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第62話
一週間後、いよいよ蒼空の誕生日当日。三笠が起きると、蒼空がキッチンで水を飲んでいた。
三笠に気付いた蒼空が、笑みを向けてきた。
「あ、おはようございます」
「おはよう。あと、お誕生日おめでとう!」
三笠の言葉に、蒼空は目を丸くする。
「え!?あ、あぁ。ありがとうございます」
もしかして、蒼空は誕生日だと気付いていなかったのだろうか。大人になり働いていれば、自分の誕生日を忘れることもあり得るかもしれない。
「もしかして、忘れてた?」
三笠がクスっと笑うと、蒼空は恥ずかしそうに頬を掻いた。
「はい、最近は色々あったんで、忘れちゃってましたね」
「今日はさ、二人とも休みだし、どっか行こうよ」
「そうですね。でも、どこに行くんですか?」
「今日は、俺に任せて着いてきてくれるかな」
三笠の言葉に、蒼空はキョトンとしながらも「はい。分かりました」と頷いた。
朝食を済ませた二人は、三笠の車に乗り出発した。目的地は三笠しか分からない。
時間が経つにつれ、車窓からは、木々が赤や黄に色づいているのが見えるようになってくる。
「紅葉の季節になったんですね」
都会にいると、なかなか紅葉を街なかで見る機会はないかもしれない。
「まぁね。あ、イチョウの木が黄色くなってたよ」
「そうなんですね。昔、母の故郷の近くの寺に大きなイチョウの木があって、母が連れて行ってくれたことがありました。懐かしいな」
「そうだったんた」
「はい。イチョウの葉の黄色い絨毯が綺麗でした」
前を見つめる蒼空の目は、亡くなった母親を思い浮かべているのだろうか。
車を走らせて一時間以上が経ち、蒼空が尋ねてきた。
「あの……まだですか?結構遠くまで来ましたけど」
「うん。もうちょっとだよ。ホラ、俺たちあまり遠出ってしたことなかっただろ?たまにはいいかなと思ってさ」
「そうですね。三笠さんと二人でこうして出掛けられるの、嬉しいです」
「俺もだよ。普段、捜査では出掛けてるけど、仕事だしな」
話しながら走行していると、少し車の進みが遅くなってきた。
目的地に近付いてきたのだが、人気のスポットということもあり、渋滞しているのだ。
「あれ、何か渋滞してきてるみたいだね」
「ここって、栃木ですよね?無事着くのかな……」
蒼空も不安になっているようだ。
「大丈夫だよ、もうすぐ着くから。ちょっと遅れるけどね」
三笠の言葉に、蒼空はホッとしたようだ。
それから三十分後、三笠たちは目的地に到着した。三笠たちがやって来たのは、日光のいろは坂だ。カーブの多い道だが、その道中に綺麗な紅葉を見ることができる。坂のカーブも車の進み具合が遅いものの、ゆっくりと色づいた紅葉を眺められた。
「綺麗ですね」
「あぁ。来て良かったよ」
その後、明智平というスポットからはロープウェイに乗りさらに景色を楽しんだ。
「俺、ちょっと高い所苦手なんどすけど、ロープウェイに乗って良かったです」
蒼空が夢中で窓の外の紅葉に夢中になっている。
そんな姿を見て、三笠の心は幸せに包まれた。
ロープウェイを降りると、眼下には美しい景色が広がっていた。天気が良いので、中禅寺湖なども見える。
「いい景色ですね」
「うん。今度は泊りで中禅寺湖の方とかも行ってみたいね」
「はい。またゆっくり来ましょう」
二人は密かに手を繋いだ。
その後いろは坂を降りてからは、昼食を食べて東京に戻った。
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