62 / 63

第62話

 一週間後、いよいよ蒼空の誕生日当日。三笠が起きると、蒼空がキッチンで水を飲んでいた。 三笠に気付いた蒼空が、笑みを向けてきた。 「あ、おはようございます」 「おはよう。あと、お誕生日おめでとう!」  三笠の言葉に、蒼空は目を丸くする。 「え!?あ、あぁ。ありがとうございます」  もしかして、蒼空は誕生日だと気付いていなかったのだろうか。大人になり働いていれば、自分の誕生日を忘れることもあり得るかもしれない。 「もしかして、忘れてた?」  三笠がクスっと笑うと、蒼空は恥ずかしそうに頬を掻いた。 「はい、最近は色々あったんで、忘れちゃってましたね」 「今日はさ、二人とも休みだし、どっか行こうよ」 「そうですね。でも、どこに行くんですか?」 「今日は、俺に任せて着いてきてくれるかな」  三笠の言葉に、蒼空はキョトンとしながらも「はい。分かりました」と頷いた。  朝食を済ませた二人は、三笠の車に乗り出発した。目的地は三笠しか分からない。  時間が経つにつれ、車窓からは、木々が赤や黄に色づいているのが見えるようになってくる。 「紅葉の季節になったんですね」  都会にいると、なかなか紅葉を街なかで見る機会はないかもしれない。 「まぁね。あ、イチョウの木が黄色くなってたよ」 「そうなんですね。昔、母の故郷の近くの寺に大きなイチョウの木があって、母が連れて行ってくれたことがありました。懐かしいな」 「そうだったんた」 「はい。イチョウの葉の黄色い絨毯が綺麗でした」  前を見つめる蒼空の目は、亡くなった母親を思い浮かべているのだろうか。  車を走らせて一時間以上が経ち、蒼空が尋ねてきた。 「あの……まだですか?結構遠くまで来ましたけど」 「うん。もうちょっとだよ。ホラ、俺たちあまり遠出ってしたことなかっただろ?たまにはいいかなと思ってさ」 「そうですね。三笠さんと二人でこうして出掛けられるの、嬉しいです」 「俺もだよ。普段、捜査では出掛けてるけど、仕事だしな」  話しながら走行していると、少し車の進みが遅くなってきた。  目的地に近付いてきたのだが、人気のスポットということもあり、渋滞しているのだ。 「あれ、何か渋滞してきてるみたいだね」 「ここって、栃木ですよね?無事着くのかな……」  蒼空も不安になっているようだ。 「大丈夫だよ、もうすぐ着くから。ちょっと遅れるけどね」  三笠の言葉に、蒼空はホッとしたようだ。  それから三十分後、三笠たちは目的地に到着した。三笠たちがやって来たのは、日光のいろは坂だ。カーブの多い道だが、その道中に綺麗な紅葉を見ることができる。坂のカーブも車の進み具合が遅いものの、ゆっくりと色づいた紅葉を眺められた。 「綺麗ですね」 「あぁ。来て良かったよ」  その後、明智平というスポットからはロープウェイに乗りさらに景色を楽しんだ。 「俺、ちょっと高い所苦手なんどすけど、ロープウェイに乗って良かったです」  蒼空が夢中で窓の外の紅葉に夢中になっている。 そんな姿を見て、三笠の心は幸せに包まれた。  ロープウェイを降りると、眼下には美しい景色が広がっていた。天気が良いので、中禅寺湖なども見える。 「いい景色ですね」 「うん。今度は泊りで中禅寺湖の方とかも行ってみたいね」 「はい。またゆっくり来ましょう」  二人は密かに手を繋いだ。  その後いろは坂を降りてからは、昼食を食べて東京に戻った。

ともだちにシェアしよう!