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第2話

しがない事務職サラリーマンのオレ―杏野瑞樹(あんのみずき)―は 気づけばもう27歳。 年齢的にはもうずいぶんとイイオトナのはずなのに、 年ばかりを重ねただけで 自分はびっくりするほどまったく、オトナなんかじゃない。 同い年のエリートサラリーマンの蓮ちゃん―笹井蓮(ささいれん)―とは 中学の時からの腐れ縁で、 気づけばもう10年以上の付き合いになる。 とはいっても、一緒に通ったのは中学だけだ。 中学1年で出会ってから3年間、 ずっと同じクラスだった蓮ちゃんとは 頭の出来も部活も違っていたのに、 お互い一番の親友として3年間を過ごした。 ・・・少なくともオレにはそう思えた。 その後、 頭の出来が違いすぎる蓮ちゃんとは 高校も大学も別々で、 当然、いまの勤め先だって別々だ。 にもかかわらず、 こうしていまだに交流があることは、 きっと稀な、世間的には喜ばしいことに なるはずのことなんだろう。 どこか楽しそうに コンビニ袋から買ってきたものを並べ終わると、 カチャカチャと小さな音をたてながら 蓮ちゃんは左手首から腕時計を外した。 そして、 その場ですくっと立ち上がる蓮ちゃんを 視線の端にとらえたままでキッチンへ向かうと、 みそ汁の入った鍋に火をつける。 おたまを持った手をゆるく動かしながら、 見つめすぎないように気を付けつつ ちらりとそのイイ男を覗き見た。 蓮ちゃんの細くて長い指先が、 きつく締められていたネクタイの結び目に添えられると、 慣れた手つきでてのひらを左右に動かして、 中途半端にネクタイをゆるめる。 次に、 緩めたそのネクタイを中途半端なまま、完全に外す前に、 Yシャツのボタンを上から二つだけ先に外すと そこで小さく息をついたのがわかった。 まるっと一日、働いてきたとは思えないくらいにパリッとしてる、 明らかにブランド物だとわかるその背広を無造作に、 ソファの背もたれに脱ぎ捨てると、 オレの視線は無意識に 中途半端に開けられた男らしい首元の、 その鎖骨あたりを見つめてしまう。 蓮ちゃんはいつだってそうやって 無防備に 中途半端に首元をチラリとだけあらわにしたのち、 最後にようやくネクタイを完全にほどくのだ。 そんな風に少しずつ 肌をあらわにしていく蓮ちゃんを、 オレはいつもチラチラと盗み見て、勝手に一人、ドキドキする。 「ってかお前も帰ったばっかだった?」 言いながら、 Yシャツの袖口をまくりながらこちらにやってきて、 手を洗うつもりなのだとわかるオレは 慌てて視線をそらした。 「ちょっとだけ残業あって。」 いつもなら先に風呂に入って部屋着になっているオレが、 今日はYシャツの上からエプロンをしてる。 「へ~めずらしい。」 蓮ちゃんがこちらにきたのをきっかけにして 鍋の火を止めると 二つのお椀にみそ汁を注いだ。 背中に手を洗ってる蓮ちゃんを感じながら、 お椀をテーブルまで持っていく。 蓮ちゃんが脱ぎ散らかした背広とネクタイを拾い上げると、 大して広くはない部屋の、 蓮ちゃん専用になってるその場所に、それらを丁寧にかけてやった。

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