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第9話
いまも二人して、ちゃんと彼女がいる。
実は蓮ちゃんも
そっち関係はたいがい適当で、
わりとすぐにとっかえひっかえしてることを知っている。
それもけっこうスペック高めの女子ばかり。
つまりは本当にタラシなのは蓮ちゃんだけだ。
まぁオレのほうは
タラシなんかよりもよほど酷いことをしてるんだけど。
彼女がいるくせに
蓮ちゃんはなぜだか毎週、金曜の夜にこの部屋に現れる。
いまカノにもらった靴を履いて。
もとカノにもらったネクタイをして。
もうずいぶん昔、いつかの誕生日に
オレがあげたハンカチを持って。
それをどこか不思議だとも思う。
親友ってこんな感じなんだろうか。
でもきっとそれは
毎週末訪れるこのなんともいえない時間に、
友達以上の深い意味があって欲しいと願ってしまう、
自分の浅はかさがそう思わせているのかもしれない。
グラスと氷を用意しながら
蓮ちゃんを想う。
出来るならもう
ここには来てほしくない・・・という気持ちが、
まったくないといえばウソになる。
だってやっぱり、
毎週土曜日の午前中に、
ここから彼女に会いに行く蓮ちゃんを見送ることは
どこか切ないのだ。
とはいえ、二人で過ごせるこの時間はとても貴重で
大切だとも思う。
だって、いずれ男としての幸せを
ちゃんと掴んでいく蓮ちゃんを、
この先、独り占めできる時間は
もうあまり残されてはいないだろうから。
こんな風にすごせる週末が
ずっと続いてほしい気持ちと、
けれども
この気持ちが成就することは
一生来ないっていう事実に
オレは勝手に板挟みになって
身動きが取れない。
「ワインかウイスキーか、どっち?」
空気を変えたくて、
そして
いろいろ考えることを放棄したくて、
強い酒を持ってこようと
立ち上がりながら声をかけた。
「ん~・・じゃあ・・どっちも?」
下からの、上目遣いの蓮ちゃんと目が合うと
そこでもう、
いろんなことを考えるのをやめた。
するとなぜだか互いに笑った。
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