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第10話

☆ 翌日、中途半端な時間に起きると、 起きたてに二人でゲームをして、 いつも通りそのままダラダと 朝食と昼食の間みたいな食事をすると、 蓮ちゃんはちらりと携帯をつける。 そして、 背伸びをするようにして立ち上がると オレの貸した、 それはまるで蓮ちゃん専用になっているスエットを脱ぎはじめた。 オレもそれを合図にして立ち上がると、 無言でキッチンに立って皿を洗いだした。 蓮ちゃんが帰り支度をしている最中、 オレはいつでも皿を洗ってる。 きっと、 皿を洗いながら、 実は自分の手のひらを懸命に洗ってるって気がしてる。 水ってどこか不思議。 オレのナカにあるイヤな感じのするナニカを、 皿の汚れごとキレイに流してくれるような気がしてくるから。 もうすぐこの部屋を出ていく蓮ちゃんを、 なんでもないって顔して送り出す準備を、オレは独り、 毎回こうしてひっそりとしているのだ。 皿を洗い終えるとお湯を沸かした。 洗面台にいる蓮ちゃんの用意が終わるのを待つ間、 1人分のコーヒーの準備をしながら 数分後に出ていってしまう蓮ちゃんを想う。 湯気のたつひとつのマグカップを机に置いて、 ソファにもたれかかった。 「じゃあな」 「ん」 ソファに座ったままで、 一瞬だけ視線を通わせると 目の前のマグカップを見つめながら 返事とも取れない返事をする。 いつも思う。 大して片付いてはいない、 真っ昼間の明るいこの小さな部屋の中で、 この、蓮ちゃんとの別れ際は いつまでたってもなんだかとっても居心地が悪い。 シャツと下着と靴下を取り替えて、 あとは昨日、ここに来たその格好で ーー―もしくはオレの服を借りるときもあるーー― 蓮ちゃんはこの部屋を出ていく。 じゃあなと言う蓮ちゃんに、 オレはいつだってなんといって送り出せばいいのか、 正解がわからない。 だから玄関先まで見送ったりはしないし、 それどころか視線すらも合わせない。 背中を向けたまま、 ソファに座って立ち上がることもせずに、 中途半端にコーヒーを飲みながら 扉が閉まる音だけを確認する。 カチャリと玄関の扉が閉まる音がすると ようやく顔を上げた。 蓮ちゃんがいなくなった部屋で 黒く揺れるその液体を見つめて、はぁっとため息をついた。 今日も無事、 役目を終えたその液体を一口飲むと、 それはまだあったかかった。

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