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第11話
蓮ちゃんが出て行ってしまって5分もしないうちに、
携帯が震えてメッセージが来る。
オレは反射的にまたため息をつく。
見なくても、
それはきっと彼女からメッセージだろうとわかるからだ。
オレの彼女は毎週金曜の夜、
蓮ちゃんがココに来ることを知っている。
そうして見てたのかと思うくらいの高確率で、
蓮ちゃんが帰った途端、携帯が震えるのだ。
仕方なくメッセージを開くと
予想通りの文章がそこにある。
いつものようにスタンプひとつで返事を返した。
すべては自分のせいだとわかってはいるのだけれど。
いったいどうしたらいいのか
オレは本当に分からない。
わからないままオレは立ち上がると、
Tシャツを脱いだ。
☆
てきとーに服を着替えててきとーに髪を整えると、
ついさっき蓮ちゃんが出ていったその扉から、
オレも外の世界へ向かう。
別に好きじゃ無くたって、
好きって言ってキスをして
もっとえっちなことだって、
そんなことは簡単に出来る。
なんなら、
好きな相手じゃないから出来るのかもしれないとすら思える。
あの、中学のとき。
はじめて女の子に触ったとき。
あのとき、
年齢と環境と自分への嫌悪と、
そしてなにより、
身体の欲求があってくれて良かったと思う。
そういったことに上手に誤魔化されて、
目の前の女の子に好きだよって言葉なんて
簡単に言えたから。
男が好きな自分にとって、
明らかに異常なこと
―ーー女の子に好きだって言ってキスをして、
それ以上のいろんなことをすること―ーー
は、実は大して難しくなかった。
当時のオレがそれが出来たのは、
外側だけでも普通でいられてることが
とても大事なことだったからかもしれない。
相手が女の子ってだけでひどく安心した。
そこにはあるべきカタチの愛は無かったし、
明らかに自分を誤魔化してることくらいはわかってる。
でも確実に外の世界からの安全と安堵と普通があって、
それはなかなか簡単に無視できるようなものじゃなかった。
だからもう。
一度、それを経験してしまえばそこからはその延長だ。
そうやって、
今日までやってきている。
とにかく、
蓮ちゃんにだけは知られたくない。
もちろん、
世間にだって知られたくない。
なんのとりえもないオレにとって、
世間一般で
普通にサラリーマンして暮らしていくことは
本当にとても大切なことなんだ。
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