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第12話

待ち合わせの場所に行けば彼女はもう来ていて、 オレは笑顔でお待たせと言って手を挙げて、 そして彼女の手を握った。 それが正しいカタチだから。 同じ会社の事務をしてるこの子は オレから見ても世間からしても、 女性の中でも可愛い部類に入ることはわかる。 だから丁寧に慎重に扱わなくてはならない。 面倒な部分はたくさんある。 そう遠くはない 別れるときのことを思うと気が滅入る。 それでも自分から、 この関係を壊そうとは思わない。 おまけにきっと、 今日は彼女の家に泊るんだろう。 そして泊まったならもちろん、することはする。 きっと・・・蓮ちゃんもそうしてる。 オレと蓮ちゃんの決定的で明白な違いは、 オレのは愛がないってこと。 愛してなんかない。 愛してなんかいない人に 愛してるって言うのは 実はそんなに難しいことじゃない。 愛してる相手に 愛してるって伝えることの方が ずっとずっと、難しい。 手を繋いだまま歩き出すと、 今日は映画を観たいと言われた。 こちらがデートプランを考えなくて済むことに オレはどこかホッとして、 笑顔で何が観たいのかを聞いた。 この子に酷いことをしてるってことは よくわかってる。 そして、 見てくれも性格も決して悪くはない彼女は、 一緒にいて楽しくないかといえば、 実はそんなこともない。 手を繋いだりキスしたりしなくてよければ、 それはそれでけっこう楽しい相手なんだ。 これもまた、 とても酷いことを言っていることはわかってる。 でも仕方がない。 本当のことだ。 彼女のことは好きだ。 ただ、 蓮ちゃんへの好きとは比べ物にならないくらいに、 種類がぜんぜん違うってだけ。 もういい加減、わかっている。 オレは「蓮ちゃん」が好きなんだ。 それはつまり、 男が好きってわけでもないんだと思う。 まぁ実際、 男とそういったことを 試したことがあるわけじゃないから、 確実にわかってるわけじゃないけど、 おそらく蓮ちゃんが女でも オレは蓮ちゃんが好きなんだと思う。 まぁだから、 世間一般で言う バイってやつなのかもしれない。 なんにしてもわかっていることは、 そういう意味で欲情できる相手は、 いまは蓮ちゃんしかいないってことだ。 少なくとも中学のあのときからずっと、 そういう意味で興奮できる相手は、 蓮ちゃんしかいない。

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