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第13話
☆
「よぅ」
「ん」
チャイムが鳴って扉を開ければ
今週もまた、蓮ちゃんは金曜の夜にやってきた。
当たり前すぎて、いまじゃ挨拶すら適当だ。
本当に毎回だから
オレはいつだって
マンションの入り口でインターフォンを
鳴らされたと同時に、
玄関のカギを開けている。
そうして、
きっとそれを知っているのに
蓮ちゃんは毎回、
扉の前で必ずもう一度インターフォンを鳴らして、
オレが玄関を開けるまで待つのだ。
絶対に自分から、その扉を開けない。
そうしてなんとなく、
そういう蓮ちゃんにホッとする。
そういうどこか細かい、蓮ちゃのルール。
律義と言うか、蓮ちゃんなりの線引き。
毎週、連絡もなしにココに来て
泊まっていくくせに、
オレが扉を開けるのを絶対に待ってる
そんな、
どこか踏み込みすぎない距離間に、
上手く言えないけど
『まだ引き返せる』って感じがする。
オレがいつかそういう意味で
この男を意識しなくなって、
そうして、
本当に友達と思って
これから先に進んでいくことが出来るっていう、
希望が、
光が、
隠れているってそう、勝手に解釈してる。
我ながら
なんてこじつけだろうと思うけど、
でもそうじゃなきゃやっていけない。
蓮ちゃんが来る前日にはほとんど毎晩
ベッドの中で
蓮ちゃんの裸を、手のひらを思い描いて
いかがわしい行為にふけっているオレが、
友達ヅラして今日もこうして、
料理をしながら蓮ちゃんを待ってることなんて、
出来るわけない。
「今日はDVD借りてきた。」
「へぇ~なんの?」
キッチンから小皿に取り分けた
ザーサイを持って蓮ちゃんの前に置くと、
いつものように
ソファの上に散らばる背広とネクタイを拾い上げて、
やっぱりいつものように丁寧に
その場所へかけてやった。
「杏野が見たいって言ってたヤツ。」
「だからなに?タイトル言ってよ。」
戻ると蓮ちゃんは
もうデッキにDVDをいれてる。
「だからなんなの?」
「観ればわかるだろ。」
「言えばいーじゃん。」
なぜかタイトルを言わない蓮ちゃんの、
いたずらっ子みたいな楽しそうな顔を見ると
思わず笑う。
こういうとき。
こういう瞬間。
オレはこの男の
真の友達になりたいと強く思う。
だって友達なら・・・友情なら。
これから先も一緒に居られる。
この時間はただ楽しくて、
面白くて、幸せな過去になる。
少しの濁りもなく、
ただただ、
互いに楽しい思い出になるんだろうから。
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