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第14話
「風呂借りるぞ~。」
「ん~。」
蓮ちゃんが風呂に入っている間に、
いつものように
蓮ちゃん用の布団をひいてやる。
部屋に泊ることはあっても、
蓮ちゃんは一度だって
オレのベッドで寝たことはない。
・・・まぁ・・・当然か。
今夜、
借りてきてくれたアクション映画は、
オレより蓮ちゃんの方が楽しんでいた。
それなりに長く一緒にいる。
週に一度、この部屋で飲みながら
まったく実のない話しをしているだけだったとしても、
少しは蓮ちゃんをわかる。
今夜の蓮ちゃんはどこか楽しそうだ。
彼女と何があったのかもしれない。
違うかもしれない。
どっちにしても、オレは聞かない。
オレの知らないところで幸せな蓮ちゃんを、
オレは出来れば知りたくはない。
こんなとき、イヤって程身にしみてわかる。
やっぱり友情なんかじゃない。
蓮ちゃんの幸せを一緒に喜べない自分が本当にイヤになる。
そして、こんな濁った感情は、
愛でもなんでもないような気がする。
隠さなければならないこの感情を
もしも蓮ちゃんが知ったなら、
いったい、どんな名前を付けるのだろう。
そんなことを考え出すと怖くなって、
独り新しくビールを開けた。
☆
風呂からあがってくる蓮ちゃんは、
冬場意外はほとんど上半身裸で出てくる。
学生時代からの付き合いだ、
蓮ちゃんの上半身はもちろん、
裸だって見たことがあるというのに、
自分の部屋っていう
狭いテリトリーでその格好でいられることに、
最初のころは妙にドキドキしてオロオロした。
でもいまは平気だ。
というか、
平気を装うことが平気になった。
冷蔵庫を勝手に開けてビールを取り出す蓮ちゃんの、
細いのに程よく筋肉ののったたくましい背中を
チラチラと盗み見る。
どうして、この男はこうも無防備なんだろう。
当然と言えば当然なんだろうけど、
そういう意識を全くしていないその背中は
オレにとってびっくりするほど魅力的だ。
幸いなことに、
いままであのたくましい身体に
キスマークを見つけたことはない。
蓮ちゃんの歴代の彼女たちがみんな、
そういうことに興味がないのか、
それとも蓮ちゃんが嫌がるのかたまたまか・・・
「杏野も飲む?」
「っ・・ん。ちょーだい。」
なんて事を考えてると、
急にこっちを向いた蓮ちゃんに声をかけられて、
慌てて視線を外した。
「はい。」
「ありがと。」
手渡された缶ビールは、
それはそれは冷たかった。
「・・・冷たい。」
「そりゃ冷蔵庫に入っていたからね。」
無防備に、
乱れた乾ききらない髪をイケ散らかして、
滑舌よくそう言われてなぜか落ち込む。
どこか勝手に傷ついてるオレにお構いなしに、
ぐびぐびっと音を立ててもう一口、
蓮ちゃんは美味しそうにビールを飲んだ。
「・・・」
思わず無意識に・・
湯上りの、
普段より艶を増した肌をした、
上下に動くそののどぼとけを見つめてしまう。
「なに?」
「っ・・なんでもない。」
ごまかすために
オレもあわててビールのふたを開けると
ごくごくっと音を立てて
泡立つ液体を流し込んだ。
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