17 / 82

第16話

☆ いつかは相思相愛な相手と週末を過ごしたいと思いながらも、 そのいつかはいつかでしかない27歳の、 もうすぐ夏が終わる金曜日。 会社を出ると 暑い空気が全身を包む。 迷わず背広を脱いでスーパーへ急いだ。 蓮ちゃんのためのおつまみと軽めの夕飯と、 翌朝分の二人分のご飯を買うと エコバックに詰めてアパートにつく。 郵便ポストを開けて、チラシやらなんやらを無造作に掴むと 部屋に入った。 電気をつけるとすぐに エアコンのスイッチを押して、 お風呂のスイッチも押した。 オレも蓮ちゃんも暑がりだけど、 夏でもしっかり湯船につかる。 オレは単純にお風呂も温泉も好きってだけだけど、 しっかりしている蓮ちゃんは 翌日まで疲れを持ち越さないため・・って言いそうだ。 腕時計を外して 手を洗ってうがいをする。 買ってきたものをしまうと すぐに風呂に入る準備をした。 風呂上がり、 本当はすぐにビールが飲みたいのを 金曜日だけは我慢してる。 そんなコト、蓮ちゃんはきっと知らない。 まぁ、知る必要もない。 Tシャツと短パンに着替えて何気なく、 さっき持ってきた郵便物を見ればそこには 結婚式の招待状が届いていた。 「あ~もう届いたの?」 やっぱりいつものように、 コンビニ袋をぶらさげた蓮ちゃんは 机の上にあったその分厚い白い封筒に気づいてそう言った。 「ん。蓮ちゃんトコにも今日あたり届いてるんじゃない?」 それは、オレとも蓮ちゃんとも仲が良かった、 中学の同級生からの結婚式の招待状だった。 もともと結婚することも、 待状を送ってくれることも グループチャットのやり取りで知っているし、 互いに招待されていることもわかってる。 「コイツも結婚か。」 「ね。」 まだ開けていない、白い封筒を 片手でくるりとしながら蓮ちゃんが言う。 蓮ちゃんの口から出た『結婚』というワードに 少しドキリとしながらも、 沸かしておいたお湯に麺をいれた。 「お、冷やし中華。」 やっぱり Yシャツの袖をまくりながらこちらにやってくると、 蓮ちゃんが嬉しそうに言った。 「今日、暑かったからね。」 「やっぱわかってんねぇ、杏野は。」 少し複雑な気持ちがあることをわかりながら笑うと、 すでに切ってあった具材と一緒に 盛り付けるためのお皿を並べた。 いつものように ソファに散らばる背広とネクタイを拾い上げると その場所にかける。 そこでなんとなく、 心のどこかがホッとした。

ともだちにシェアしよう!