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第18話
「いま7か月目。」
「え?」
「いま杏野が付き合ってる女。けっこう続いてる方だろ。」
「なんでそんなこと、蓮ちゃんが知ってんの?」
「心配してやってんの。」
心配なんて・・・それはあまりにも
意味がないことだよと言いたいけれど言わない。
言えるわけがない。
「蓮ちゃんこそ、結婚しないの?」
正直、そんなことは聞きたくはない。
でも自分の結婚などと言う、
生産性が欠片ほどもない話題より、
いつかきっと来てしまう、
蓮ちゃんの未来の方が自分にとってはよほど意味がある。
いつか来る「いつか」がいつかはわからないからこそ、
蓮ちゃんのいまの気持ちくらいは知っておいたほうがいい。
一度も会ったことのない今の彼女は、
この男にとって結婚がチラつく相手なのだろうか。
「しないでしょ。」
スパっとパキっとそう言われて、
正直オレはホッとしてしまった。
「なんで?いまの彼女に何か不満でも?」
「良いだろ別に。」
照れているのかもしれない。
「8か月だよ。」
「なにが?」
「蓮ちゃんは8か月目だよ。いまの彼女と。」
オレを見る、蓮ちゃんのおっきな両目が一瞬、
もっと大きくなった気がした。
「・・へぇ。知らなかった。」
視線をそらして唇を尖らせると気まずそうにそう言って、
蓮ちゃんもビールをぐびっと飲んだ。
オレに偉そうな事を言っておいて、
タラシの蓮ちゃんは自分だって彼女とのいろいろを、
覚えてなんていないのだ。
普通の友達なら、
彼女の話しも結婚観についても、
話すことはきっと普通のことだろう。
でもオレはずっと避けてきたし、いまだって避けている。
ありがたいことに蓮ちゃんも、
恥ずかしいのか彼女がころころ変わるせいなのか、
あまり自分からそういう話しをしないでいてくれる。
もしかしたらオレが話題を振るのを
待っているのかもしれないけれど。
視線が外れてしまった蓮ちゃんをチラリと見て、
心の中だけでふぅっと息を吐くと、ビールをほとんど飲みほした。
そのまま立ち上がると蓮ちゃんに向かってにこりと笑う。
「まぁ、式には呼ばないでね。」
「なんだそれ。そこはふつー、一番先に教えろとか
言うところだろーが。」
蓮ちゃんの言葉を背中で聞きながら
特別用もないのにキッチンへ向かうと冷蔵庫を開けた。
なにか持っていけるものがないかを探してみる。
自分から振っておいて申し訳ないけど、
この話しはおしまいだ。
覚悟も決心も勇気も持っていない自分は、
いまはまだ、
わかりきってる未来の決定事項を
誤魔化していたいから。
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