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第20話
☆
「お~い。」
一応、声をかけてから、
瞼が開かない整ったそのカオをまじまじと見る。
といっても、いつもの席から眺めてるだけで
距離は詰めない。
結局、一つ目の缶ビールを空けたところで後ろのソファにもたれると、
そのまんまの姿勢で口を開けたまま、
蓮ちゃんは眠りだしてしまった。
そんなことはとても珍しい。
しっかりしている蓮ちゃんは、
これだけ毎週飲みに来てても、
飲みながら寝ちゃうってことは本当に少ないのだ。
どれだけ酔っぱらっていても
いつだってちゃんと風呂に入ってオレのスエットを着て、
オレがひいた布団で眠る。
寝顔を見つめながら、
今日の楽しそうだった蓮ちゃんを思い出す。
そうしてあまり知らない、
蓮ちゃんの日常を勝手に想った。
サラリーマンと一括りにしては申し訳ないほど、
オレと蓮ちゃんじゃあ仕事の内容も形態も違う。
適当に選んだ職場で滅多に残業なんてないオレと、
ちゃんと自分で働きたい会社を見つけて、
普段から毎日残業してるらしい蓮ちゃん。
同じようなスーツを着ていても、
ステータスはまったく違うのだ。
そしてそれは、
本当は出会った最初からそうだった。
「そんな格好でよく寝れるね。」
返事が帰ってこないことをわかりながら声をかける。
周りに気を配れる蓮ちゃんは、
気づけばいつも文句を言いながらも
進んでみんなを盛り上げるのは中学の時から変わらなくて、
もれなく今日もそうだった。
いま想えば、
リーダーシップを発揮してる蓮ちゃんを見るのは久しぶりで、
いつもに増して目で追ってしまっていた気がする。
そのまましばらく蓮ちゃんを見つめた。
・・・なんか。
無防備だよな・・・としみじみ思う。
なんにも知らずにいい気なものだ。
オレみたいなヤツの前で、
こうも簡単にこんな姿を晒すのだから。
毎週末ここに来て、酒を飲んで風呂に入って、
オレのスエットを着てこの部屋で眠る。
それはきっと、
オレに気を許してくれているってことなのだろう。
友達として。
親友として。
そしてそれはきっと、
オレの気持ちをまるでわかっていないってことでもあるだろう。
それは連ちゃんがオレをまったくそういう意味で
オレを意識してないってことでもあるからもちろん哀しい。
でもそれは、
この男に自分の気持ちがまったく伝わっていないんだという証明でもあるから、
それはそれでホッとする。
世界で一番、愛しい男の寝顔を見つめて、
なんだか頭がくらくらとする。
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