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第26話

☆ 「杏野っていい奥さんになりそうだよな。」 「・・・は?」 風呂上がりのさっぱりした顔をして、 オレのスエットを着た蓮ちゃんは、 かきたま入りのうどんを食べながらサラリと言った。 「なにそれ。」 ドクンとする。どこか嬉しい気もした。一瞬だけ。 でもやっぱりどこか哀しい。 「なんつーか料理も上手いし。」 「こんなの料理のうちに入んない。」 「俺は出来ねぇ。」 哀しさを感じたのとほとんど同時に、 どこからともなく怒りがこみあげてくる。 「こんなのも作れないなんて蓮ちゃんがおかしい。」 「なんだよ。」 悲しみが怒りとが混ざって めずらしくそれは態度に出てしまう。 「蓮ちゃんがヘンなコト言うからだろ。」 「褒めてんだよ。」 「そういうのは褒めてるって言わない。」 おまけに一度あふれるとそれはどんどんひどくなっていく。 「なんで怒んの?」 「うるさい。もういい。」 蓮ちゃんは悪くない。 そんなのよくわかってる。 そして、 これは悲しみでも怒りでもないってことがわかった。 これは・・・ 「オレは女じゃない。」 虚しいってやつだ・・・ 「そういう意味で言ったわけじゃ・・」 「もういい。」 「そんな怒んなよ。」 「だからもういいって言ってんじゃんっ」 「・・悪かったよ。」 「なにが悪かったんだよ。わかりもしないで謝んな。」 「なんなんだよ。意味わかんねぇ・・」 「蓮ちゃんにわかるわけないだろっ」 ああもう・・・泣きそうだ。 せっかく、 蓮ちゃんがはじめて2日連続でココにいるというのに、 オレは何をやってんだろう。 ホント、救いようのないバカだ。 「・・・ごめん」 昨日、あんなことをしちゃったオレは どうがんばってもまともじゃない。 ・・・というか、もうずっとまともじゃないんだ。 「ごめん。オレが悪い。」 目を見ずに謝った。 実際、蓮ちゃんはなにも悪くない。 そんなことはわかってる。 わかっていて耐えられないだけだ。 「なんか俺も悪かった。」 謝んなくていいよ・・・と言いたかったけど、 そんなことを言い出すとまた余計なことになりそうで、 もう何も言わないことにする。 残りのうどんを食べだせば、 蓮ちゃんも同じようにした。 目の前に会った食べ物が、 あったかいもので良かった・・って思った。 風に気まずい空気が流れる中、 しばらく二人とも無言で、 うどんをすする音だけが部屋に響く。 「お前、午後予定は?」 「え?」 うどんを見つめながら蓮ちゃんが言う。 「ビールまだある?」 「・・いまから飲むの?」 「あればな。」 視線が通わない蓮ちゃんをちょっとだけ見つめて、 オレは無言で立ち上がると冷蔵庫に向かった。

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