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第27話

「どうぞ。」 「・・・まだ怒ってんの?」 持てるだけのビールを持ってくると、 その量の多さに蓮ちゃんは戸惑った顔をした。 「怒ってないよ。昨日、一緒に買ったでしょ。」 笑いながら 持ってきたビールをテーブルへ広げた。 「だな。そういや俺、すぐ寝ちゃったんだ?」 「そ。すぐ。1本目で。」 蓮ちゃんはなぜか頷きながら、 手前の缶を取るとプシュッと開ける。 「無理して付き合わなくていいぞ。」 「ムリしてないよ。」 言いながらオレも缶を開ける。 するとスッと蓮ちゃんが缶を差し出すから、 それはまるで反射的に、自分の手元の缶をコツンと当てる。 互いに薄く笑った。 朝っぱらから飲むビールが こんなに救いに感じたのはたぶん、初めてじゃない。 やっぱり ビールは神だ。 ☆ お互い3本目の缶を開けたところで 蓮ちゃんの携帯が震えた。 無言で携帯を取ると画面を見るから、 オレはなんとなく視線を外した。 メッセージの相手は誰なのか、どんな内容なのか、 そんなことはもちろんいままで聞いたことはない。 知りたいけれど知りたくはない。 知ったところでどうにもならないし、 いま目の前にいないダレカにいちいち気を取られて、 すぐそこにいる蓮ちゃんって存在を忘れてしまいたくはないから。 「杏野は携帯キライなの?」 金曜の夜から土曜日にかけて、 オレは携帯をベッドルームの机に置いている。 「なに?急に。」 「携帯を携帯してないだろ。」 その言い方に思わず笑うと、蓮ちゃんも笑った。 「なに?ダジャレ?」 「お前が携帯弄ってるトコってあんま見ねぇなって思って。」 確かに、二人でいるときは携帯を携帯していない。 それはもちろん意識して・・・だ。 「別に嫌いじゃないよ。」 「ふ~ん」 ただ蓮ちゃんと一緒の時間は ちゃんと 蓮ちゃんと過ごしたいと思ってるだけ。 「写真。昨日の。結婚式の。」 「え?」 「送られてきた。いま。」 「ああ。そっか。」 オレはどこかホッとして立ち上がると、 携帯を取りに行く。 「昨日のことがもうすでに異様に懐かしいんだけどなんでだ?」 「気持ちよく酔っぱらってたからじゃない?」 久しぶりに携帯を開くと そこには友達からのメッセージだけではなく、 彼女からのメッセージも来てる。 明らかにテンションが下がるそちらを無視して、 蓮ちゃんが見てるものと同じであろうメッセージを開くと、 一気に昨日のことが思い出された。

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