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第30話
片づけ終わったこの部屋で独り、コーヒーを淹れた。
今日は蓮ちゃんを見送るためのコーヒーではなく、
彼女にメッセージを送るためのコーヒーだ。
彼女はコロコロ変わるけど、
自分から振った相手は覚えてる限りではいない。
いつだって、別れ話を切り出すのは彼女の方。
きっと、彼女たちの方が勘が鋭く、
自分が傷つかない術を知っているのだと思う。
というか、
もしかしたらそういう勘の鋭い子をわざわざ選んでいるのかもしれない。
潮時がわかる賢い子。
ホントに好き?とはあまり聞かれたことがない。
その前に振られる。
振ってくれる。
オレのどこかがいつも言ってる、
本気じゃないっていうそのオトが、
彼女たちには聞こえているのかもしれない。
「はぁ・・・」
もう一口コーヒーを飲むと、
よしっと気合を入れてそのメッセージを開く。
すぐに返事が出来なくてごめんと謝って、
当たり障りのない短い文章を打ち込んだ。
賢い彼女はメッセージをすぐに既読にしない。
待っているなんてそぶりはそこには見えない。
本当はどうなのかは知らないけど。
そのまま昨日の結婚式の写真を観る。
そこには笑う蓮ちゃんがいる。
☆
翌日の今日、謝罪の意味を込めて、
仕事帰りに彼女を食事に誘った。
一応、社内では付き合ってることを隠していて、
受付けをしてる彼女とは社内に居てもほとんど顔を会わせない。
こうしてときどき、会社帰りに食事をすることはあるけど、
それもさほど多くはない。
互いの帰りの路線が違うのはいいことだと思う。
週明けの月曜日なんて
本当はまっすぐ家に帰りたかったけれど、
今日は仕方がなかった。
会えば当然、週末にあった友達の結婚式の話題になる。
写真を見せてと言われて正直、気分が下がった。
「お色直しは打掛だったんだ。」
「ん、着物だった。」
「私は白無垢もいいなって思ってるんだけど、どう思う?」
友達の結婚式の写真を彼女と見る・・なんてこと、
絶対にしないほうがいい。
結婚式にまつわる「どう思う?」という問いかけに、
オレの返答はなにを言っても正解には繋がらないから。
「ん・・・白無垢も似合いそうだよね。」
「でもやっぱりウエディングドレスも着たいな。」
これ以上、
この話題が広がることに恐怖を覚えて、
否定も肯定もできないオレは
ぎこちなく、あいまいな笑顔でニコリとした。
どうにか話題を変えたい・・と思いながらも
いいアイディアは浮かばない。
「そろそろ会ってみたいな。」
「え?」
「瑞樹くんの親友に会ってみたい。」
結婚式の写真をスライドしながら
彼女はサラリと言った。
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