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第34話

すると 蓮ちゃんの大きな目がオレを捕えて少しだけ、その瞳と見つめ合った。 でもその瞳からはなにも伝わってくるものはない。 たぶん先にその視線から目を反らしたのは自分だった。 「どうだろ。」 小さくつぶやくみたいなその声は、オレの身体のオク深くに響く。 「旅行行ってクリスマスは二人で過ごすんでしょ?」 「それがイコール上手くいっるってことになるかはわからねぇ。」 「まぁ、確かに。」 なんて言ったらいいかわからないとき、 ビールって最高の味方をしてくれる。 ゴクリと音を立てながら飲み干すと、 無意識にテーブルのそのグラスを見つめた。 「なんでグラス?」 話題を変えたくて、たったいまもらった目の前のグラスを見つめる。 蓮ちゃんからもらうすべてはなんだって嬉しい。 それはモノではなく、 一緒に過ごす時間や話してくれることや見せる表情も。 それらはなんであっても、蓮ちゃんにしかできないから。 蓮ちゃん意外はぜんぶ、 自分にとって大したものじゃなくなってしまう。 「なんか杏野っぽいかなって思って。」 「オレっぽい?なにが?どこが?」 「さぁ?」 自分で言っておいて、蓮ちゃんは首を傾げる。 なにそれって言いながら、 どこかにあるらしいオレっぽさを感じ取ろうとグラスを手に取った。 底が丸日びを帯びていて、全体的にまぁるいカタチの、 それはひんやり冷たくて、自分の手のひらにしっくり馴染むような気がした。 「ありがと。」 どこら辺がオレらしいのかはわからなかったけど、 そのカタチにはなんだか居心地の良さを感じた。 親指の腹で自分のイニシャルを撫でると、 なぜだか蓮ちゃんをさわっているような気持になって、心がキュウっとする。 「ソレで飲まねぇの?」 「ビールを?」 「なんでもいーけど。」 「これビール用?」 「ってかなんだっていいんじゃね?」 もともとはなに用だったのだろうと思う。 でもまぁ、蓮ちゃんがそういうなら「なんっだって」いい。 「洗わなきゃ。」 「洗ってくれば?」 なんだかおかしな会話だなと思って蓮ちゃんを見た。 「これで飲んで欲しいの?」 「・・別に。」 すると視線が外れて、どこか照れてるような顔が現れる。 こういう蓮ちゃんの顔も好き。 つまるところ、いままで知ってる蓮ちゃんの顔は、 怒ってる顔も泣いてる顔も つらそうな顔ですら、驚くことにぜんぶ好きだ。 「洗ってくる。」 立ち上がってそう言うと、 蓮ちゃんはこちらを見ずに、おぅ、とだけ言った。

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