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第35話

「上手くいってないってどう上手くいってねぇの?」 珍しく終わったと思っていた話題をぶり返されて、 自分は明らかに気分が沈む。 せっかく、もらったグラスで気分よくビールを飲んでいるというのに。 「なんだか面倒になっちゃったんだよ。」 そしていつもと同様、その話題にオレは本当の理由は言えない。 「ふ~ん。」 聞いた割には素っ気なく相づちだけをされて、 もっとなにか言わなきゃいけないような気がしてくる。 「もともとそんなに好きってわけでもなかったんだ。」 「ん~・・」 「なんていうか・・告られて・・フリーだったから付き合ったっていうか・・」 途中から、 まるで自分が浮気でもして、 それを恋人に必死に言い訳してるみたいな気分になってどんどん焦る。 「そもそも誕生日もクリスマスも面倒。 デートプランもなにもかも、彼女のためになにかを考えることも・・・ っていうか彼女のこと自体ももう・・っ」 自分の声が次第に大きくなってることに気づかなかった。 「本当はもう全部イヤなのに・・それはもう最初っからイヤで、 そんなこと十分わかってて、そのくせイヤだって言えない自分が一番イヤだっ」 気づいたときにはもう怒鳴ってた。 なぜだか突然イライラして、 そのまま言葉にしてしまうと気持ちはどんどん加速して膨らんでしまった。 「・・・杏野?」 なんともいえない気分だ。 イラついて・・悲しくて・・虚しい・・・・・ すべては自分が悪いとわかっていても、 もう抱えているのが耐えられない・・・・・ 「おい、杏野」 「杏野って言うな。」 「は?なに?」 「もう杏野って言わないで。」 「なにそれ。どういうこと?」 蓮ちゃんはどこか怒りを帯びた声色で つじつまが合わないって顔をする。 そうして、いまだ気持ちがぐちゃぐちゃなオレは、 けれども、 「そんなことをいちいち聞かないでよっ」と言うのだけは さすがにこらえた。 「おい。どーした?だいじょうぶか?」 「・・大丈夫じゃない」 「え?」 なぜか立ち上がった。 なにかを誤魔化したいときって人は、 自分でも理解不能の意味不明な行動をしでかすのだ。 そうして、立ち上がってしまってどうしようと考える。 「風呂、行ってくる。」 「え?もう入ったんじゃねーの?」 その通りだった。 でももうここに・・・ 蓮ちゃんのそばにいられない。 とにかくこの場所から離れなきゃいけない。 たとえ抱えきれなくっても・・・ 蓮ちゃんにだけは・・・言えないから・・・ 「行く。」 オレは本当に風呂場に向かった。

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