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第37話

☆ 翌日の朝遅く。 自分の気持ちのすべてに、 解決も片を付けることもできていないのに、 目が覚めるとなぜだか清々しい気分だった。 顔を洗って歯を磨いて、冷蔵庫を開ける。 朝とも昼ともとれる食事を作り始めると、さらに気分は上がった。 いつもと変わらないってすごいことなんだなって気づきながら、 蓮ちゃんの好きな卵入りの雑炊を作った。 コトコト煮込むのは好き。 理由はわからない。自分のことなのに。 「はよ。」 「ぉはよ。」 ボサボサ頭すらもかっこよくなっちゃう蓮ちゃんが起きると、 どうして蓮ちゃんはこんな感じなんだろうってまた、思う。 同い年の・・・同じ男の蓮ちゃんは。 ただそこにいるだけでなんというか、感動しちゃうのだ。 どうしてこうも特別に見えるのだろう。 いっそのこと幻滅したいのに。 スエットの裾から手を入れて、 ポリポリっと腹をかきながらきっとトイレに向かう。 空気だけでそう感じて、視線は鍋に向ける。 その日の雑炊はとても美味く出来た。 ご飯を食べてダラダラして、 チラリと携帯を確認した蓮ちゃんが着替えている間、 オレはいつもみたいにキッチンで洗い物をする。 来週は会えない。 再来週はクリスマスだし、 きっとそのまま、年末も会えないだろう。 おそらく次に会えるのは年明けってことだ。 だから変にケンカ別れにならなくてよかった。 いつもよりどこか丁寧に皿を洗ってからコーヒーを淹れようとして、 インスタントの粉が 中途半端に残っていただけだったことに気が付いた。 これだとカップの半分にもならない。 確か、何かでもらったドリップコーヒーがあったと思うけど、 オレはインスタントの方が好き。 あの、手軽で単純なのが良いって思う。 自分に似合っているし、 本当はオレだってこんな風に単純に生きていたいのだ。 ・・・勝手が違ったコーヒーのせいだろうか。 気づかないところで、 帰る準備をしている蓮ちゃんを何気なく目で追ってしまっていた。 見ないようにするために、 目の前にコーヒー入りのマグカップを用意しているっていうのに。 オレは蓮ちゃんがこの部屋に来るときと同様、 この部屋を出ていくときも毎回、動揺する。 もう毎週のことなのに、もう何度となく繰り返しているのに、 彼女のもとへ「帰って」いくその姿に、 自分はどんな顔をすればいいのかがわからない。 だから見ない。 コーヒーを見つめる。 オレにとってこの瞬間のコーヒーは飲むためのモノじゃなく、 見つめるためのモノなんだ。 見送ることだってしない・・というか、正確には出来ない。 中途半端に笑うことが、どうしたって出来ないから。

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