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第39話

心ん中が慌てまくってるオレは、 蓮ちゃんにさっさと出て行ってくれと願った。 すると蓮ちゃんがなにも言わずにこちらに来て隣に座るから、 オレは余計に困惑する。 この距離はダメだ。苦手だ。 近すぎるのだ。 「なぁ。」 「っ・・・ん?」 「マジでお前、なんかヘン。」 全身がドクドクする。 そう・・・ヘンなんだ。 そして、こっちが本当のオレなんだよ・・・ なんてことは言えないし、 かといってそれに代わる上手い言葉も出てこない。 「ごめん。平気。なんか疲れてんのかも。」 誤魔化したくても大した言葉が出てこない。 これが精いっぱいだ。 「もう行って。待たせたら彼女に悪い。」 視線を通わせないよう注意してそう言った。 目の前にあるのはコーヒーの入るマグカップ。 するべきことはたった一つしか思いつかない。 だからその茶色い液体を一口、ゴクリと飲んだ。 「杏野。」 真横で言われてズキンっとする。 「・・・なに?」 息を吐く。 とにかく・・・蓮ちゃん・・・どうか・・・ 「こっち見ろ。」 ズキズキする。 心ん中で息を吐いてゴクリと唾を飲むと、 覚悟をしてそっちを向いた。 目の前の、近すぎるそのカオは心臓に悪い。 呼吸が止まりそうなその時間は、 きっと数秒だったと思う。 「じゃあね。」 耐えられずに慌てて視線を外すとそう言った。 隣で蓮ちゃんがふぅっと息を吐いて、 ソファの背もたれに腕を広げて身体を預けたのを全身で感じる。 もう何をされても身体中が痛い。 「どっか行く?」 「え?」 「今度。二人で出かける?」 ぶっちゃけ、オレにはどうだってよかった。 蓮ちゃんに会えることが大事なだけで、あとはどうだって。 「そうだね。」 でもそう言った。 笑って。 蓮ちゃんの方を見ないようにして。 とにかく早く出て行って欲しいのだ。 身体中がズキズキいって・・・ また、なにを言い出すかわからないのが怖すぎる。 すると蓮ちゃんは立ち上がる。 立ち上がるついでに オレの後ろ髪あたりをくしゃり・・・とやりながら・・・ そんなことはドキリとする。 涙が溢れそうにもなる。 だから・・・ 「じゃあな。」 「・・ん。」 「どこ行くか、考えといて。」 「ん。」 絶対に蓮ちゃんを見ないように・・・ 必死でコーヒーだけを見る。 蓮ちゃんがこの部屋から出ていくことを、音だけで感じて、 玄関の扉が閉まる音は、ひときわ大きく響いた気がした。 コーヒーの香りが漂う中でオレは独り・・・ 取り残された。

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