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第42話
今日はめずらしく少し残業をした。
それは、今夜、蓮ちゃんが来ないから・・・ということではなくて、
たまたま今日、残業になったというだけだ。
本当に。
いつものようにスーパーによって買い物をする。
蓮ちゃんが来ないからといって、
いつものルーチンを止めることをしたくなかった。
とはいえ、カクテキもザーサイも買わなかったけど。
家に着くなりキッチンに立ったままでビールを開けると、
一気に半分以上を飲んだ。
チラリと時計を見ると、
いつもならあと1時間もすれば蓮ちゃんがやってくる時間だった。
いま、蓮ちゃんはどこにいるだろう。
晩御飯は今カノと食べるのだろうか。
旅行には今夜出るのか、それとも明日の朝早くに出るのか・・
気にしないでいようと思いながらつい、そんなことを考えてしまう。
しばらく会えない蓮ちゃんを想いながら、
暖房がききだした部屋でようやく
コートと背広を脱いでネクタイを外すと、先に風呂の湯を溜めに行く。
そうして、キッチンで相変わらず立ったままでビールを飲んだ。
蓮ちゃんにもらったグラスを取り出すと、
缶ビール片手にそれを眺める。
「ありがと。蓮ちゃん。」
蓮ちゃんがいなくても、
グラスの自分のイニシャルを見るたび、
蓮ちゃんが広がる。
なんとなく、
携帯のギャラリーを開くと、いくつかフォルダーが現れた。
それらはしっかり分けられているようで
まったく適当に振り分けられている。
蓮ちゃんの写真をひとつのフォルダーに入れるなんてことはもちろんしていない。
いくつかのフォルダーにまるで無造作を装って、
学生時代からの蓮ちゃんがいくつも散りばめられている。
ギャラリーの中の蓮ちゃん以外の写真たちはすべて、
蓮ちゃんという存在を誤魔化すために存在しているようなものだった。
ときおり見返すその写真たちは、
どのフォルダーにどの蓮ちゃんが入っているかはどうだっていい。
だって、オレは蓮ちゃんの写真たちの居場所だけは、
どこにどの蓮ちゃんがいるかを把握してしまっているからだ。
オレにとって携帯は誰かと繋がるコミュニケーション手段というよりも、
こうやって「オレだけの蓮ちゃんと繋がる」ためにある。
笑顔だったり横顔だったりする蓮ちゃんを、いくつもスクロールしていく。
中にはぼやけた蓮ちゃんもいる。
ぼやけていてもそれは連ちゃんで、
そう思ったらぼやけているのに消せない。
「パーツ」だけだったり小さな後ろ姿だったり、
そんなヘンな写真もいくつもある。
いつかの朝に、
この部屋で眠る寝顔をこっそり取った写真もある。
そうして、中学のときの蓮ちゃんを見つめた。
幼い中坊の蓮ちゃんは、幼いくせにかっこいい。
可愛いとカッコいいが良い感じでブレンドされて、
それはいまだに健在で、オレはもうずっとオロオロしている。
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