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第44話

ある意味で、オレは心の底から言った。 「オレなら・・・オレ達のことなら大丈夫だよ。」 むしろ早く別れたいのだ・・・とは言わない。 「旅行どこいくの?今夜出るの?」 本当に彼女と旅行に行って欲しいと思ってそう言った。 蓮ちゃんにとって、そして、会ったこともない蓮ちゃんの彼女にとって、 それが楽しいと良いと心から思った。 本当に。 「オレなら大丈夫。本当に。だから・・」 「なんかヘンだろ。」 蓮ちゃんがオレの言葉を遮るようにして言って、 身体ぜんぶがトクンと跳ねた気がする。 「なんかヘンだろ。俺たち。」 ――なんかヘンだろ。俺たち―― 言葉が頭ん中でもっかい響く。 それはなんていうか、どこか可笑しくてそして・・・ ひどく哀しい気分にさせた。 なにを言ってるの・・・と、 笑って茶化したかったけれど出来なかった。 なにをどう言ってもウソになるし、なにより・・・ 「そんな顔すんなよ。」 蓮ちゃんがそう言って、 それはいったいどんな顔だろうと思って視線がキョロキョロした。 「責めてるわけじゃねぇ。」 「・・そんな風には思ってないよ。」 すると、携帯のバイブ音が鈍く鳴って、 それは蓮ちゃんの携帯だった。 「・・っ出ていいよ」 相手が誰であっても電話に出て欲しいと思った。 自分ではこの空気を変えられない。 「いってらっしゃいって言ったじゃん。」 けれど蓮ちゃんは 携帯を取り出そうともしないでじっとオレを見る。 けっこう長い時間、 バイブ音だけが響いている間中、 オレも蓮ちゃんも動かなかった。 音が鳴りやめば静寂がやってくる。 そしてそのまま、どうしたらいいかわからない。 「お前、いってらっしゃいって言ったじゃん。」 ドクンっとして、オレは返事が出来ない。 「杏野が行ってらっしゃいって言って、 俺は行ってくるって言った。」 息を吸いっぱなしで、吐くことが出来ない。 「だから帰ってきた。」 伏し目がちになって首が勝手に左右に揺れた。 「・・・そんな・・」 そんなことって・・・ なにかを言いたかったけれど、 なにを言っても上手く言えない気がした。 この空気を変える言葉が思いつかない・・・ もうきっと・・・きっとなにかが・・・ なにかが蓮ちゃんにはバレているんだって思った。 もうダメなんだな・・・ってそう思った。 きっと、蓮ちゃんは 「なにか」に気づいていてしまったのだ。 オレだけの秘密にしておくはずだったそれに気づいてしまった。 きっともう、どれだけ普通を装ってももうムリだ。 蓮ちゃんはそんなことで理解も納得もしないって、 そういう顔をしてる。 とはいってもきっと、 オレの本当の気持ちを知ったとしても、理解も納得もしないだろうけれど。

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