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第45話

「確かにヘンだよね。」 もう誤魔化せないとわかって、『終わり』って言葉が頭をよぎる。 具体的に何が「終わり」なのだろうと思って息を吐く。 すると今度は、それは「すべて」だって言葉が頭をよぎる。 「でもヘンなのはオレだけだよ。」 『すべて』・・・ 蓮ちゃんと築き上げてきた ーー築き上げようと思ってなかったとしても築かれていた―ー たとえば思い出とか信頼とかといったもの。 自分の本当の気持ちをなんとか必死で隠すことで築いてきた、 いままでの二人の間にあった「すべて」が「終わる」のだ。 「話すから・・・話したら帰って。」 「イヤだ。」 即答する蓮ちゃんに眉間にしわが寄る。 「ココは蓮ちゃんちじゃないよ。」 「わかってる。でもヘンなのは俺もだ。」 「だとしても帰ってよ。」 「イヤだ。」 清々しいほどあまりにはっきりイヤだと言われて、なんだか少し呆れる。 「俺もヘンだよ。」 「確かに。」 帰らないという蓮ちゃんは確かにヘンだ。 来る予定でなかった今夜の蓮ちゃんは、確かにおかしな感じだ。 「俺はどうして毎週、ココに来る?」 「え?」 「どうしてだと思う?」 いったい、何を言っているんだろう。 そんなこと、オレが知るわけない。 「なに言ってんの?」 「なんで毎週、俺は杏野に会いに来るわけ?」 「知るかよそんなの。」 「ヘンだろ。」 「え?」 「それってヘンだろ。」 ・・・いったい、なにを言ってんだ? オレはなんて言えばいいんだ? 答えの知らないそんな質問は、頭ん中がグルグルする。 そして・・・ 「じゃあオレはなんで蓮ちゃんちに行かないんだと思う?」 やっぱり自分はずいぶんと落ち着いていると思いながら、 質問に質問で返した。 いまだコートすら脱いでない蓮ちゃんを見つめて、 なんだかすごく落ち着いている。 「どうして行かないんだって思う?」 落ち着いてはいるけれど、言いながらなんだこれはと思った。 こんなのは埒が明かない。 このやりとりはまるでゴールが見えない。 ココはオレの部屋で 見慣れたよく知ってる空間のはずなのに、 まったく知らない部屋みたいだ。 こんな風に蓮ちゃんと立ったまま・・蓮ちゃんはコートだって脱ぎもせずに・・ キリキリした空気を感じたことは、いままでに一度だってない。 「オレは行けないんだよ。」 なんだかもう、早く終わらせたい気持ちになっている。 中学からのいままで、 誰にも言わずに必死にため込んできたものを、 こんなにあっさりぶちまけてしまっていいのだろうか。 「オレは蓮ちゃんトコには行けないの。」 けれどももうここまで来てしまって、他に出来ることなんてない。 はぁ・・・っとため息をつく。 今日が最後なんだなとわかって、いい加減、落ち着いた。 もう「すべて」、「終わり」だ。

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