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第49話

「いつも杏野に会いたいって思う。」 携帯のバイブ音が止むと、 蓮ちゃんはオレをギュっとしたままで話し出す。 この距離でこの声を聴くのはヤバいな・・・と思いながら、 必死でその言葉を耳が追いかける。 「俺ん中にはいつも杏野がいて、会いたいって思うんだよ。」 はぁ・・っと息を吐いた。 「顔が見てぇなって思うのは杏野なんだよね。」 彼女じゃなくてお前に会いたいの・・と、 蓮ちゃんが言って驚いた。 「でも・・怖いじゃん。」 同じだったのかもしれないって思った。 オレと同じ気持ちだったのかもしれない。 「簡単じゃねーってわかるけどでも・・・ もうずっと・・・杏野がずっと、俺ん中にいる。」 ああ・・・蓮ちゃん・・・ これは愛の告白だと思うのだけど、どうだろう。 「たぶん」と言ったけれどこれはもう、 愛の告白なんじゃないかって。 「女と長く付き合えないのは杏野のせい・・・なんてこっちの勝手なんだけど。 お前が気になるから・・・気になっちゃって・・・」 言いずらそうなその声すらも、 弱弱しく聞こえないのはやっぱり蓮ちゃんらしいなんて思う。 「なんならお前の代わりだとかそんな風にすら思っちゃって。 ずっとサイテーだなと思ってはいる。」 よくわかるよ蓮ちゃん・・と、声に出さずに心だけで頷く。 でもとてもそんな風には見えなかったよ蓮ちゃん・・・とも。 「いってらっしゃいって嬉しかった。 また来てって言われてるみたいだって勝手に思った。 それで・・・今日だってやっぱ杏野に会いたくて。 いってらっしゃいなんて言うんだから お前だって会いたいのかもしれないって、そういう・・・ 身勝手な希望だけで今日ココに来ちゃって なんていうか・・・まぁ・・・俺はいま、 おかしなことを言っているって自覚だけはある。」 いつもより早口に、 まくしたてるみたいに話す蓮ちゃんの声に、 自分の身体の力が抜けるのがわかる。 力が抜けて瞼が閉じて、 蓮ちゃんっていう存在全部に自分を預けた。 「会いてぇのはお前なの。」 「・・・うん」 「今日も。一緒に時間を過ごすなら。 その相手は本当は、杏野が良いんだよね。」

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