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第50話

☆ 土曜の朝。 いつもの土曜日より明らかに早い時間に目が覚めてしまって、 上半身を起こすと視線は自然と蓮ちゃんに向く。 いつもの場所にひいた布団の上で、 いつものようにうっすら口を開けて、 寝息を立てて寝ている。 いつものようにオレのスエットを着て、 いつものように上掛けが半分しかかかっていなくて、 いつものようにどこか堂々と寝てる蓮ちゃんはあまりにも 「いつものよう」だったから、 昨日の出来事が夢だったのかなって思うほどだった。 しばらくぼーっとする。 ぼーっとしてるのにドキドキした。 ふぅっと独り、息を吐く。 昨晩、突然やってきた ー―考えて見ればいつだって「突然」なのかもしれないけど―ー 蓮ちゃんに、 一生言うつもりのなかった気持ちを打ち明けてしまったら、 信じられないことに蓮ちゃんもそうかもしれないなんて言い出して、 オレたちは抱き合ったまましばらく、時が過ぎるのを待ってみた。 互いに、どうしたらいいかわからないって思ってることが伝わっていた気がする。 そうして実際、二人して、どうしたらいいかわからなかった。 しばらくすればどちらともなくゆっくり身体が離れた。 それは互いの意思ではなくて、 まるで見えない大きなナニカに動かされてるみたいだった。 そうやって、少しだけ離れた蓮ちゃんがオレを見て、 オレは見られていることを意識しちゃって、 逆に蓮ちゃんを見れずにいた。 でもそれは本当に少しの時間。 このときずっと、頭ん中は真っ白だったように思う。 なにかを考えて、なにかを意図して動くことは 出来なかった気がしてる。 無言のまま、チラリと視線だけを蓮ちゃんに合わせると、 その顔の近さにドキリとした。 そうしてそのまま、どちらともなく唇を重ねた。 それはそうすることがとても自然で、そうであることが当たり前みたいに。 「引き合う」って言葉はこのときのためにあるんだなってくらいに。 目を閉じて 軽く触れるだけのキス。 まるで中学生がするみたいな。 一瞬だけ、あの魅力的な紅い唇が自分の唇にくっついて・・・離れた。 そうして、離れたと思ったらまたくっついて、 オレの背中に回された蓮ちゃんの手のひらに力が入るのを感じる。 唇を離さないままで、オレも蓮ちゃんを引き寄せるみたいに 自然と手のひらに力が入った。 舌が絡む手前のキスを何度も繰り返してそうして・・・・・ 「はぁ・・・」 昨日のキスを思い出して天井を仰いだ。 ちょっとやそっとじゃ起きない蓮ちゃんをわかりながら、 それでもなるべく音が鳴らないようにして、ベッドから起き上がる。 いつもを意識してトイレに行って顔を洗うと、 パジャマのままでコーヒーを淹れた。 いつもを意識しつつも結局、これはいつもとは違う手順だった。

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