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第52話

目を開けると世界が90度真横を向いていて、 いつの間にやらソファの上で寝てしまっていたみたいだった。 3人掛けるには小さいソファの上で寝てしまったのは久しぶりだ。 めったに夢を覚えていないけど、 なんだかとても奇妙な夢を見ていたような気がする。 「っっぅわ!」 「はよ。」 「・・・っ・・はよぅ・・」 びっくりした。 身体を中途半端に起こした所で 隣に座る蓮ちゃんに気づいて、本気でビビった。 ソファのほとんどをオレが占領して、 蓮ちゃんはなんだかちんまりと座ってる。 ぼーっとしてた頭が一気に目覚めたって感じだ。 「寝ちゃってた・・」 「ああ。けっこうぐっすり。」 起き上がって、くっつく身体を蓮ちゃんから離した。 「ああ。けっこうぐっすり」 起き上がると、くっつく身体を覇者的に蓮ちゃんから離した。 蓮はいったいいつからここにいたんだろうって考える。 そして、いまいったい何時だろうとも思った。 「寝ちゃっててごめんね。」 「謝ることなんてねぇだろ。」 「でも・・・」 「でも?」 すごく間近にいる蓮ちゃんにドキドキして、頭ん中が真っ白になる。 「蓮ちゃんを独りにしたから。」 ・・・ああもう・・・ なにを言ってんだオレは・・・ 自分で自分がわからなすぎる。 気まずくなって蓮ちゃんから視線を逸らすと、 目の前のテーブルの上のマグカップが目に入る。 「蓮ちゃんもコーヒー飲む?」 ・・・と、どこか寝ぼけ眼で蓮ちゃんの方を向きながら言えば、 それとほとんど同時に蓮ちゃんがオレをぎゅっとした。 ぅわ・・っと思って、ドクンっとして、そうして・・・・・ 嬉しいって思う。 やっぱり、オレはこの男が好きで・・・ こんな・・・まるで恋人同士みたいなことを・・・ 蓮ちゃんとしたかったんだ・・・ 「甘くして。」 「え?」 「コーヒー。甘いのが飲みたい。」 「・・っわかった」 ドクドクしながら 蓮ちゃんの背中に両腕を回して身体を預ける。 バクバクしてる。 すごくしてる。 でもそれはどこか、 いままで知らなかった甘さをともなって、 決して居心地が悪いってわけじゃなく、 むしろもっとそこに浸っていたいって感じだ。 なかなか離れられなくて、瞼を閉じる。 蓮ちゃんも同じように感じてくれてたらいいなって思った。 牛乳を温めようと、カップをレンジに入れる。 スイッチを押すとなぜか、 彼女がいつも飲むホワイトモカを思い出していた。 冬はよくそれを飲む。 夏は抹茶なんとかラテってヤツだ。 彼女がこの部屋に来たことはほとんどなくて、 こっちから向こうに行くようにしてた。 この部屋に来て欲しくなかった。 ひどいけど。 彼女のことは好きではない。 そういう意味では。 でも好きだ。 そういう意味じゃなければ。 そうじゃなきゃ付き合おうとは思わない。 好きの反対は、嫌いではないんだ。 彼女はキレイな髪をしてる。 黒くて長い髪は、なんというかボリュームがあって艶があって、 いつも真っすぐだ。 コーヒーのいい香りに包まれながら、ちゃんと別れようと決めた。 蓮ちゃんとあんな風に抱き合ったら別れるしかない。 これから蓮ちゃんとどうなるのかはわからなくても、 とにかく、 別れようと決めた。 ただどうやって別れるのかを知らない。 いままでどうやって振られてきたのか思い出そうとして、 まったく思い出せなかった。

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