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第53話

「買い物行って来るよ」 自分のコーヒーも新しく淹れなおして 蓮ちゃんに甘い方を渡すと、いつもの場所に座った。 ソファの下のラグの上。 蓮ちゃんを左斜めに見て、この角度は落ち着く・・と思った。 「朝飯。たいしたものがないから。」 蓮ちゃんとほとんど同時にその液体に息を吹きかけると、 やっぱりほとんど同時に一口飲む。 まさか蓮ちゃんが来ると思ってなかった昨日は、 スーパーに寄ったもののたいしたものを買っていない。 「コンビニ?」 「コンビニ。」 「ってかどっか外行く?今日。二人で。」 蓮ちゃんに言われてドキッとして、オレは思わず黙った。 そうして言いたいことが・・・というより、 聞きたいことがたくさんあることに気づく。 彼女は大丈夫?とか 旅行はどうするの?とか それはデートって意味?とか 今日はいったいいつ帰る?もしくは帰らないの?とかとか。 「・・・どうするの?」 そして結局、言いたいことと近いようで遠いような、 その一言が出てくる。 でもきっと伝わる。 だってきっとオレたち二人はいま、同じ気持ちだと思うから。 「ん・・・やることがあるよな。」 「オレもね。」 するとまた二人してふぅっと息を吹きかけてから、 ほとんど同時に目の前の液体を飲んだ。 ☆ 大声で笑ってる蓮ちゃんの声はこっちまで気分を明るくするって、 いまもまさにそう思っている真っ最中だ。 あれから、蓮ちゃんはオレのジーパンとロンTを着て二人して外に出ると、 なんとそのままオレたちは、 すべてを一旦横に置いて、朝っぱらから飲むことにした。 お互い財布に入ってたあり金ぜんぶを使って、 買ってきたビールやらワインやらウイスキーやら ー―もちろんカクテキもザーサイもクラッカーだってー― を買ってきて、 二人してバカみたいに飲んだ。 外はまだ朝のしんとした空気が肌寒い中で、 暖房をきかせたこの部屋でこんな風に飲み始めたのは ー―初めてじゃないかもしれないけど―ー 思い出せる中では初めてだ。 つまりこれは逃避だ。 二人ともまったく大人なんかゃない。 こんなことしたってどうにもならないってわかっているけど、 二人ともどうにもならないのだ。 答えもやるべきこともわかっているのに、 どうしたってそれをやる気になれない。 そうして、 そういう気持ちなのが自分だけじゃないってことが嬉しかった。 蓮ちゃんも同じなのだと思うと、それだけですべてが救われる。 男同士・・あんな風にキスをしたあとでも、 こうやっていままで通りみたいに過ごせることが、とても嬉しかった。 オレは、友達としての蓮ちゃんも失いたくないのだ。 欲張りなんだなと改めて知った。

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