58 / 82

第57話

☆ お風呂から出てキッチンへ入ると、冷蔵庫から缶ビールを取り出す。 缶を開ける時の音はいつも変わらなくて、とても安心した。 ゆっくりと 蓮ちゃんからもらったグラスへビールを注ぐ。 小さな炭酸の音が耳に心地よくきこえた。 今日は木曜日。 つまり明日はクリスマス。 彼女に別れを告げてその翌日の火曜の朝、 視線が絡んだ彼女は黙ったままだった。 罵倒するでも睨むでも、もちろんほほ笑むでもなく、 ただ、黙ってた。 その瞬間、またごめんと思った。 でもその瞬間までオレは蓮ちゃんのことしか考えてなくて、 それに気づいてもう全部が「仕方ない」と思えてそれから・・・ その子との過去の全てをすっかり忘れた。 本当にすっかりと。 そうしてその日。 彼女と別れた翌日に、 オレはネットでいかがわしい商品を ー―つまりは必要な商品を―ーチェックした。 だってそれは・・・そう・・・ すべては前進しているのだから。 そうしてあっという間に今日。 いまはもう、木曜日も終わりがけだ。 あれから蓮ちゃんからの連絡はなかった。 オレからもしていない。 明日は金曜日できっと・・・蓮ちゃんはいつも通り、 ココに来てくれると思ってる。 来て欲しい。 たとえ彼女と別れていなくても。 すると携帯が鳴って、 身体がその振動音に必要以上にビクンと反応した。 テーブルの上の携帯に手を伸ばすと、さらにドクンとする。 『もしもし』 『俺』 『ん。お疲れ』 それは蓮ちゃんだった。 声を聞けただけでホッとしてる自分がいる。 『どうしたの?』 『明日、そっち行っていい?』 『え?』 『明日、泊まりに行っていい?』 ドクドクっとした。 全身がドクドクっと。 どうしてわざわざ・・・と思って瞬間、 その意味や理由がきっとわかってしまったと思ってドクドクする。 『っもちろん・・・いいよ。』 『ん。これから別れてくる。』 『え?』 『じゃあ。』 言いたいことを言うだけ言って、 あっという間に電話は切れた。 無意識に息を吐く。 ネットで買ったイカガワシイそれらを頭に描く。 「じゅんび・・・」 しなきゃ・・・とドクドクしながら、 琥珀色した液体に浮かぶ、グラスのイニシャルを見つめた。

ともだちにシェアしよう!