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第59話
ただ、わかったとしても怖さはある。
コートも脱がずにこんな風にキスされちゃったら、
もういったいどうしたらいいんだろう。
用意した夕飯を
―ー一応今日はクリスマスなのだ―ー
蓮ちゃん買ってきたケーキを無視して、
こんなことになってしまっていったい・・・身体がアツい。
「っはぁ・・っ」
壁に押しやられたままで、
蓮ちゃんのアツい手のひらが
まだ着替えていない、オレのYシャツの裾をズボンから引き抜こうとする。
直に背中にその手のひらの温度を感じてドキリとした。
「っちょ・・んっ・・ちょっまって・・」
「・・・待った方がいい?」
待つつもりのない蓮ちゃんに、
そのネツのこもったおっきな瞳に、
もう全身がバクバクだ。
「いきなり襲うのはかっこわりぃとは思ったんだけどさ・・」
息を吐く、余裕のない蓮ちゃんは可愛い。
「でもまぁなんだ・・もうあまり勿体つけてもなって気もしてるっていうか」
「ん・・」
わかる・・・わかるよ蓮ちゃん・・・
と思いながらも言葉が上手く出てこない。
ずっと認められなかったことを認めてしまって
それでも、怖さは消えない。
そうして、
怖さは消えないけどこうやって蓮ちゃんに触れることは
すごく幸せだとも思う。
「あのさ・・」
「ん?」
「あの・・へーきだと思う?」
「なに?」
「オレたち・・・ちゃんと出来るかな・・・」
二人とも、
男は初めて・・のはずなのだ・・・
「使い物になるかって意味なら心配ない。」
蓮ちゃんがまっすぐそう言って、オレは思わずうなずいた。
「っ・・ん。それはその・・オレも自信ある。相手が蓮ちゃんなら・・」
言ってる最中に、
自分がなに言ってんだろうって恥ずかしくなった。
視線が絡む蓮ちゃんがヤラしい顔して笑うから
「っそ・・そんな顔して笑うなっ」
思わず身体を押しやった。
「わりぃ。でも・・俺も同じだ。」
はぁ・・っと大きく息を吐きながら、
蓮ちゃんは身体を引き寄せて、オレの肩に顔を寄せた。
「もぅ・・・いったいいつからそうだったの蓮ちゃん。」
つまりはオレで・・そんなことをしてたのって意味だ。
「杏野は?」
「そんなの・・もうずいぶん昔からだよ。」
「たぶん俺もだ。」
また、蓮ちゃんの「たぶん」だ。
たぶんたぶんたぶん・・・
「けど・・」
「けどね・・・」
こんなこと、「たぶん」で進めたくないのだ。
だってダメになりたくない。
こんな風にもうすでに、気分が盛り上がってしまっている。
相手は蓮ちゃんだ。
話し合うことがある。
まずは自分と。
つまりそれは・・・どっちがどっちなんだろうってこと。
ぶっちゃければどっちかが突っ込んで、
どっちかは突っ込まれるわけなんだけど・・・
もしくはお互い・・・?
なんにしても、
男同士に必要な、とろみのついた液体を用意はしていても、
少なくとも自分はそこまで具体的な事を考えてはこなかった。
だって現実にそうなるとは思ってもみなかったんだ。
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