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第62話

「なぁ、なんで『杏野って言うな』なの?」 「え?」 言いながら、 連ちゃんは手慣れた手つきでオレのスエットを脱がしにかかる。 「んっと・・・意味はない・・」 ばんざいをさせられて、あっという間に上半身は裸になって、 なんだか心もとない気分になった。 「それ嘘だろ。」 言いながら、今度は蓮ちゃんが自分の上着を脱いだ。 見慣れてる上半身にやっぱり・・ドキリとする。 「まぁ・・・もういいの。忘れて。」 そうしてそのままベッドに押し倒されて、 蓮ちゃんはオレを見下ろしてる。 見上げる蓮ちゃんは想像より恐ろしく男前な顔をしていて・・・ 「なんか・・手慣れてるね。」 「お前だっていままで女といろいろしてきただろ。」 心外だ・・とでもいうように、 悪気なく言う蓮ちゃんと視線が絡む。 まぁ・・確かにその通りではある。 でもちょっとは複雑。 わかってはいたことでも。 この手がこんなに器用に動くときを、 いったいどれだけの女の子が知ってるんだろう・・なんて。 「だよね。」 純情ぶってみても、 オレだって同じじゃないかってことは重々承知だ。 「でもこっち側は初めてですぅ~」 「俺も男は初めてですぅ~」 見つめ合って笑う。 すべては過去だといま、二人して思ったのだ。 見上げる蓮ちゃんが 少しの迷いもなくキスをする。 この角度の蓮ちゃんは、おそらくはじめて見た。 「なんか・・違うヒトみたい。」 「こっちも俺だよ。」 「なるほど。」 知らない蓮ちゃん・・・ それは、知りたかった蓮ちゃん。 オレはそれをいまから知るんだ。 つまりいままで積み上げてきた、 積み上げようと思ったわけじゃなくても積み上がってた、 二人の関係は今日、ここで確実に終わる。 それはしっかり肝に銘じておかなきゃならないってことだ。 「後ろ、さわったことる?」 そんなことを聞くなと思ったけれど、 オレだって同じことを聞くかもって気もする。 「さっきね。」 「上手くいった?」 「・・出来るだけのことはしたと思う。」 なにせはじめてそんな「処理」をしたのだ。 ネットの情報だけで。 それはかなり気合がいるものだった。 蓮ちゃんがこの部屋にいなかったら、 出来なかったと自負できる。 「さっきより前は?」 「ない・・・こともない。」 正直に言えば、晴ちゃんが固まった。 「チャレンジャーだな。気持ちぃの?」 「知らない。 ホントちょっと自分で触ってみたくらいで、 結局怖すぎて入口さわったくらいだし・・」 正直に答えた。 実際、若気の至りって部類にもはいらないほど、 独りではどうにもならなかったんだ。 「それにもうずいぶん前だし。」 「ずいぶん前ね。」 視線を交わして、 いまお互いが同じことを考えてるってわかる。 お互いがお互いを見る目がアツく、 特別だったことを、 いったいどうして気づかなかったんだろう。 こんなに長く、そばにいたのに。

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