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第73話

「なにこれ。美味そう。」 手を洗ってきた蓮ちゃんは、 テーブルに並んだ料理を見てわかりやすく嬉しそうな顔をする。 「はじめて作ったから美味しいかわかんないよ。」 今日はいつもより少しだけ豪華な料理を作った。 そしてビールと一緒に持ってきた紙袋を なにげなく手渡した。 「はいこれ。」 「ん?」 受け取った蓮ちゃんから視線を外して、 ビールと自分用のグラスを並べていく。 「なに?」 言いながら無造作に蓮ちゃんが袋を開ければそこには・・・ 「俺の?」 「ん。そぅ。」 グラスが出てくる。 「イニシャル入り?」 「ぅん。」 少し照れくさくて、短く返事をする。 「へぇ。嬉しいけどなんで?」 「なんだっていいじゃん。」 嬉しそうにしてくれる蓮ちゃんを眺めて、 どこかホッとした。 オレが蓮ちゃんからもらったグラスは底がまぁるい形をしてる。 そうして、 オレから蓮ちゃんへプレゼントしたグラスは、スッとした形の四角い、 なんていうか・・・ 蓮ちゃんらしいカタチを選んだつもりだ。 「洗ってくる。」 と言って、グラスを手に取ると 「ちょい待って。」 という言葉とほとんど同時に蓮ちゃんはオレの手を取って、 そのグラスをテーブルに置いた。 手を繋いだままで二人して寝室へ向かう。 蓮ちゃんが自分で掛けたスーツの背広から小さな箱を取り出すと、 それをオレに渡した。 「なに?」 「開けてみる?」 「まぁ・・そうだね。」 リボンもかかっていないその小さな箱を開けてみればそれは・・・ バングルだった。 「どうして?」 「そろそろ半年がたつから。」 驚いて蓮ちゃんを見ると、 その顔はどこか照れてるのを隠せてないって顔をしてる。 「覚えてたんだ?」 「まぁ・・」 そう。 親友だった蓮ちゃんとこの部屋ではじめてキスをしてから、 来週で半年がたつのだ。 オレの誕生日もある、忘れられそうもない去年の12月。 初恋をこじらせまくっていた男と初めて抱き合って、 触れ合って、あんな場所でいっこに繋がってから 気づけばもう半年が過ぎようとしている。 あの日、 思った以上にすんなりと抱き合えて、 互いになんとかなってしまったおかげか、 あとうはもう、 世間一般と違うってことにはあまり悩むこともなく、 今日まですごすことが出来ていた。 その理由は単純で、 それまで オレの人生の大きな悩みの種のように思えていた 自分が普通とは違うってこと自体が、 たいした悩みではなくなってしまったからだった。 なぜなら 世間から後ろ指をさされることより、 この男とキスが出来なくなることの方が、 オレの人生にとって死活問題なんだってことが わかってしまったから。

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