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第74話

「料理もグラスも同じ意味?」 「ぅん、まぁ・・」 「ありがと。」 「こっちこそありがと。」 バングルなんておしゃれなものをはじめてもらって、 なんだかドキマギする。 「なんか高そう。」 「まぁね。」 普段、こういった装飾品はまったく身に着けないから、 グラスのときと同様、なんだか驚くプレゼントだった。 「なんでバングル?」 「杏野を縛っておきたいから。」 「っ・・・」 まったく・・・この男は本当に・・・ 「なんだよそれ・・」 プレゼントを渡すだけにあんな風に照れるくせに、 こんなセリフはサラリとまっすぐ、言ってのけるんだ。 半年前、キスをしてセックスをして・・・ そうしてそれは今日までに何度もしてきていても。 けれどもオレは・・・オレたちは。 「付き合ってんだよね?」とか「恋人同士だよね?」なんてことを 口に出したことはない。 「好き」なんて言葉も滅多に言わない。 二人とも。 だって 気持ちが通じ合ってしまった世界に、 そんな確認作業は必要なかったから。 いまも毎週末、蓮ちゃんはココにやってきて、 そして、 そのたびキスをして抱き合って、お互い心が揺れる。 見えないけれど、 それはそれはとても静かでとても情熱的なのだ。 つまりはもうそれだけで十分だ。 だからオレは無言で、この部屋の合鍵を渡した。 だから蓮ちゃんも無言で、その合鍵をもらったのだ。 お互い、そういう意味で。 「さすがに指輪ははやすぎると思って。」 ・・・また。この男は本当に・・・ どうしてこうも無意識に オレを感動させ、期待させるのだろう。 中二からこじらせてるこの恋心は28になってもなお、 終わる気配なんて微塵もなくて、むしろ広がり続ける一方だ。 何も言わずに自然と蓮ちゃんの背中に腕を回すと、 先週末ぶりのキスをする。 そして、それは最初っから、 軽く触れあうようなキスじゃあない。 男同士、ジュクジュクに熟した恋心を持ち合わせて、 すぐソコにベッドがある部屋でこんなプレゼントとあんな台詞を言われた後。 舌を絡めたこんな深いキスなんてしちゃったら、 二人してそのままベッドに倒れ込むのはいたって普通のことだろう。 「はぁ・・・っ」 蓮ちゃんがエプロンをまくりあげて、オレの短パンを引きずり下ろすと、 オレも蓮ちゃんのYシャツのボタンを外しだす。 視線が絡むたび、手を休めないようにして 浅く、深く、キスを繰り返ながら、ふっと、 蓮ちゃんが来る日はいつだって、 来る前にソコの準備が終わってるって知ったら・・・ 蓮ちゃんはいったい、 どんな顔してどんなセリフを吐くのだろうかと思った。 それはきっと、 オレには思いもつかないくらいに オレを感動させて期待させる言葉なんだろうと思う。

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