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第79話

「で、いつごろ予定してるの?」 「明日。」 「は?」 即答した。 呆れた口調で。 「だから明日。」 「・・・それは明日、物件を見に行こうってこと?」 「いや。明日引っ越すってこと。」 「はぁ?」 また即答した。 呆れかえって。 だってあまりにも急すぎるから。 「もう物件探したってこと?」 「そう。」 「どこ?」 「ここ。」 「・・・・・は?」 ・・・これは驚き。 そして今度は即答できなかった。 予想外すぎて 本当に息が止まった気がした。 「だからココに住もうかなって。」 「・・・」 「ちょうど鍵も持ってるし。」 「・・・・・」 蓮ちゃんは淡々と話している間中、 オレの方を見なかった。 代わりに片手の人差し指で、その色っぽい唇をなぞって、 もう片方では オレのあげた手元のグラスをゆらゆらさせて、 視線はビールが揺れるのを見ているようだった。 この一年の間に・・・ 蓮ちゃんと二人、この部屋でもう何度も何度も キスをしてセックスをした。 ベッドの上ではもちろん、 ときにはラグの上で、 ソファの上で、 風呂場で・・ キッチンで・・ 目が合って、 引き寄せられるみたいに唇が重なれば、 時には服も脱がずにソコだけを晒して繋がって、 カチャカチャとベルトの音が響く中で ふしだらな声を上げることだってあった。 それはもう何度も。 ほとんど毎週末ごとに。 それでもオレたちはいまも 「いってらっしゃいのキス」とか 「おかえりなさいのハグ」なんてものはしない。 まるでいままでと変わらない。 それは・・・ オレたちはいまも、友達でもあるから。 「・・・一緒に住むの?」 ごくりと唾をのむ。 「まぁ・・・杏野がいいって言えば・・・」 決して強くはない、 けれど、迷ってはいないって感じで蓮ちゃんが言った。 「それっていったい・・・」 どういう意味・・・??? 語尾を詰まらせたオレに、 ようやく蓮ちゃんはこっちを向いた。 ひとつ、 小さく深呼吸をしたのがわかった。 「来週末は一緒に指輪でも買いに行きませんか」 「・・・・・」 これは絶句だった。

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