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話し合い
「そのアプローチというのが、アレか?」
「そうです。その、ちょうど発情期でしたし…そういうのに誘うにはちょうどいいかなと……」
直生がまたしても赤面した。
「そのアプローチのためにあんな格好を?」
総治郎はなんともいえない気持ちになった。
昨日の直生の格好を思い出すと、こちらが恥ずかしい気持ちにさえなる。
「ええ、その…アプローチって言っても、どうしたらいいかわからなくて、だから、そういう動画をたくさん見て参考にしたんです」
「そういう動画って…まさか、アダルト動画のことか?」
「……そうです」
照れ隠しなのか、直生が顔の下半分を両手で覆った。
総治郎は反応に困った。
なんらかのアプローチをしてはどうかという中野のアドバイスを受けて、なぜアダルト動画を参考にするのか。
ほかに方法はなかったのかと理解に苦しんだ。
「なるほど、きみのカード、やたらとアダルトサイトからの請求が多かったのはそのせいか」
戸惑いを覚えつつも、1つだけ納得いったことがあった。
直生のクレジットカードの使用履歴を確認したところ、大半がアダルトサイトからのものであった。
なんだってこんなサイトからこんなに請求が来るのか、ひょっとして直生が気付かぬうちに何かの詐欺に引っかかったのでは、と思っていたので、総治郎はホッとした。
「え、あ、はい…その、すみません、あの、使い過ぎてしまって、以後気をつけますから…」
直生の顔の赤みがサッと引いたかと思うと、申し訳なさそうな顔をした。
浪費したことを責められているものと思ったのかもしれない。
「いや、別に好きに使ってくれていいとも。ただ、何に使っているのか、ちょっと気になったから確認しただけだ」
今度は総治郎が申し訳ない気持ちになった。
結婚したとき、金は好きに使わせようと思っていたのに、結局は直生を疑って何に使ったか調べたことに、後ろめたさを感じたからだ。
まるで浮気を疑って夫のスマートフォンをチェックする妻のようではないか。
「そうですか。でも、気をつけますね。ああいうのも使い過ぎはよくないですから…」
「うん、それはまあ、そうだな」
直生はすまなさそうにするが、さほど浪費したわけではないし、詐欺などではないとわかったなら、この話はもう終わりだ。
「それで直生…」
「あっ…」
今後のことについて話そうとした矢先、直生の様子がおかしいことに気がついた。
直生の頬が異常に紅潮している。
目も潤んで、とろんとしはじめてきた。
同時に、ムワッとした甘い匂いが総治郎の鼻腔を突き抜けてくる。
背筋に「何か」が走り、息も上がってきた。
体が異常に熱くなり、汗で体が湿ってくる。
この感覚に襲われるのは、今日で2度目だ。
──発情期か!
「総治郎さん…」
直生がフラつきながら、こちらに歩み寄ってきて、総治郎の胸に体を預けた。
「直生、とりあえずこっちで寝なさい!」
総治郎は直生を引きずるようにして、そばの2人がけソファに誘導した。
「抑制剤はどこだ?」
華奢な体をそこに寝かせると、昂る気持ちをなんとか抑え込んだ。
──これから大事な話だったのに!
総治郎は体が思うように動かず、その場で膝をついた。
「ありません」
直生が呟いた。
「え?」
「抑制剤、処方してもらってないから、無いんです」
言いながら直生は、半身を起こした。
「なんでだ?常備しとかないとダメだろう⁈」
総治郎はガラにもなく声を荒らげた。
体が昂っているせいで、余裕がないのだ。
「抑制剤なんて、要らないでしょう?」
言うと直生は、履いていたスウェットを脱ぎ、脚を開いた。
今日も、昨日の夜と同じような下着を履いていた。
しかし、色が違う。
今日はいているのは黒いレース張りのTバックで、直生の白い肌によく映えていた。
「総治郎さん…わたしのこと、もう一度抱いてください」
直生がシャツの裾をめくって、胸を晒した。
赤ちゃんのようにすべすべした肌に、ゆうべ総治郎がつけた#痕__あと__#が残っていた。
──だめだ、いけない!
そうは思うのに、体は勝手に動く。
気がつくと直生を組み敷いて、柔らかな胸に吸い付いていた。
「ああっ…」
直生がピクリと身じろぐ。
総治郎は栗色の乳首に吸い付き、執拗に舐りはじめた。
「あんっ…それ、いやあっ…」
直生がひときわ高い声で鳴いたことで、総治郎はハッと我に返った。
「すまない、直生!」
総治郎はあわてて直生から離れた。
不思議なことに、わずかに理性が働いている。
体が直生のフェロモンに慣れ、ある程度の耐性をつけたのかもしれない。
「総治郎さん…」
直生が名残惜しそうに総治郎を見つめた。
「すまない、直生。今から薬局に行く。市販の鎮静剤は効果が薄いらしいが、無いよりかはマシだろう。それまで、なんとか待っててくれ」
言って総治郎は部屋を出ようと、直生に背を向けた。
「待ってください、総治郎さん!」
総治郎を引き止めようとした直生は、勢い余ってソファから落っこちてしまった。
幸いなことに、床に敷き詰められていた毛の長い柔らかなカーペットがクッションになってくれたので、大したケガはしなかった。
「直生、大丈夫か?」
総治郎は心配そうな顔をして振り返ったものの、近づくことはしなかった。
近づけば、また無意識のうちに直生に襲いかかるのは明確だったからだ。
「大丈夫です。だから…その、続きを、続きをシてください……」
カーペットの上、直生は体勢を立て直すと、総治郎に向かって両脚を開いてみせた。
脚が開かれて露わになった直生のそこは、しとどに濡れていて、黒いTバックの下着にシミができていた。
「いや、しかし、さっき「嫌」と言っただろう?」
総治郎は混乱した。
直生はいったい、何がしたいのだろう。
「ちがいます…」
「何が違うんだ?」
「嫌なんじゃなくて……その、驚いただけなんです。あまりに気持ち良くて…その、もう、おかしくなっちゃいそうで……」
直生は脚を閉じると、もじもじと擦り合わせ始めた。
「しかし……」
「お願いですから」
ずり下がったシャツの裾をもう一度めくり上げて、直生は懇願してきた。
「お願いって…」
「総治郎さん、わたしに、あなたの赤ちゃんをください……」
言うと直生は、また脚を開いて総治郎に呼びかけた。
総治郎は脳内でピンと張り詰めていた理性の糸が、プツンと音を立てて切れるのを感じた。
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