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若妻の回想
「総治郎さん、わたしに、あなたの赤ちゃんをください……」
言って直生は脚を開いた。
さっきまで落ち着いていた総治郎の目が、欲情を帯びてギラギラ光ったかと思うと、驚くほどの速さで直生の体を組み敷いてきた。
履いていた黒い下着はあっという間に引き剥がされ、下半身が露わになる。
総治郎が自分が履いているスラックスを乱暴にずり下げたと同時に、ベルトのバックルが壊れる音がした。
いきり勃った男根が顔を出した途端、総治郎が直生の細くて白い足首を掴む。
「あッ…総治郎さん!」
直生の脚の間に、総治郎が体を割り入れたかと思うと、胎内に男根が挿し込まれる。
「んあッ…」
総治郎が体を揺すぶって、男根が最奥を突くたび、体の昂りが強くなっていく。
「ああっ…すごい!」
理性を失った総治郎に蹂躙され、直生はなす術もなく喘いだ。
──これが、番になるってことなんだ…
感じたことのない快感に襲われながら、直生は総治郎と初めて会ったときのことを思い出した。
──ダンディーでカッコいい、ステキな人
お見合いの際、直生が総治郎に抱いた第一印象がそれだった。
身長は180センチ前後、肩も胸も厚くて広く、全体的にがっしりとした体つき。
お見合いということもあってか、焦げ茶色の髪を全て後ろに撫でつけてセットしており、四角い額が露わになっている。
四角い輪郭の顔に、太い眉、高い鼻、切れ長の目、そこから放たれる鋭い視線、形の良い大きな口。
お人好しででっぷりとした父親とはまるで違う威厳ある姿に、直生は胸がドキドキした。
「では、あとは2人きりで過ごしてくださいな。間中さんはこちらへいらしてくださいませ。お茶とお菓子をご用意していますから、ごゆっくりなさってください」
母がそう言うと、両親は知人の間中と一緒に別の場所に移った。
必然的に、直生は総治郎と2人きりになる。
直生は、目の前に立っている総治郎をジッと見つめた。
改めて見ても、やはり体格が良い。
着ているスリーピースのスーツは手入れが行き届いていて、品の良い印象を与える。
直生は総治郎の節くれだった大きな手に、何気なく視線を向けた。
──わたし、いつかこの人とそういうこと するんだ…
あの大きな体が覆い被さって、あのたくましい手が自分を抱くのか。
直生は、思わずそんなことを考えてしまった。
──やだ、わたしったら!
「ねえ、立ちっぱなしも難ですから、あちらで座ってお話しませんか?」
ふと頭に浮かんだいやらしい妄想を誤魔化すため、直生は総治郎に切り出した。
「ええ、そうですね」
総治郎は直生の誘いにしたがって、そばのベンチに座った。
直生も同じように、並んで座った。
「結婚式の日取りですとか、場所ですとか、いつになさいます?」
直生は急いで話題を引っ張り出して、なんとか会話を始めた。
「それは、まだ決めていません」
総治郎は低姿勢でかつ敬語で答えた。
25歳も年下の相手に、こうも礼儀正しく振る舞う様が、直生には尊敬すべきことのように感じた。
その姿勢お見合い中、わずかも変わらないままで、直生の総治郎に対する敬意は、ますます大きくなっていった。
──寡黙で紳士的な人…
同時に、こんなにも礼儀正しい人に対して、いやらしい想像をしてしまった自分自身を恥じた。
そうしてしばらく経った頃合いに、総治郎と結婚するという話は、実は父の勘違いであることが判明した。
それを知った母が父に詰め寄るのを、直生は襖の影からこっそり見つめていた。
「あなた、どうするんですか?私、もういろんなところに息子が結婚するって言ってしまいましたよ?」
「面目ない、京子…」
「いえ、私のことはいいんですよ。私の体面なんか別にいいんです。直生が可哀想じゃありませんか。あの子、今までお料理やらお裁縫やらいろいろ学んできて、花嫁修行がんばってきたっていうのに…」
母の言葉を聞いて、直生は胸がチクリと傷んだ。
実際に直生は、この家の経済状況を理由に、過去に婚約破棄されたことがあるのだ。
あのときの悲しさときたら、その日から3日ぐらい、ろくに食事も喉を通らなかったほどだった。
──ひょっとして、今回もダメなんだろうか
今後に不安を感じながら、直生は両親の話を聞いていた。
両親はなんとしてでも婚約を成立させようと話してはいたが、いったいどうするのかと、それが気にかかった。
結果、両親がどういう話し合いをしたのかは知らないが、総治郎との結婚が決まった。
式の会場や日取り、その日に着る衣装なども割と簡単に決まった。
実のところ、衣装や式の会場のことなど、直生はあまり気に留めていなかった。
ようやく結婚できたことがありがたかったのと、結婚式の話し合いの際に見た総治郎の凛々しい姿に、胸がドキドキしていたからだ。
総治郎はかなり懐深く、結婚式にかかる費用はすべて自分が負担すると言ってくれたし、その日もスリーピースのスーツをしっかりと着込んでいた。
──この人が、わたしの旦那さんになるんだ…
そう思うと、緊張して上手く言葉を発することができず、話し合いはほとんど父が進行する形となった。
そうして迎えた結婚式。
はじめに会ったときとは打って変わって、袴と羽織で和装した総治郎はますます魅力的に見えて、直生は直視できなかった。
スピーチを真剣に聞くフリをしながら、直生はときどき総治郎の姿を視野に入れた。
同時に、羽織りと袴に包まれた総治郎の裸の体を想像した。
──この人、夜はどんな風にわたしを抱くんだろう?ああ、やだ、いけない。今はスピーチを聞かないと!
これから迎えることになる新婚初夜を密かに想像しながら、直生は結婚式が終わるのを待った。
結婚式を終えると、直生はすぐに総治郎の家に移り住むことになり、大体の荷物はすでに両親が運び出してくれた。
もっとも、直生の私物なんてわずかな衣類くらいのものだし、両親は必要なものがあれば送ってやると言ってくれた。
それこそ、生活に必要なものは総治郎がすでに揃えてくれていたから、両親に何か頼むこともほとんどなかった。
「はじめまして、奥さま。旦那さまからお話伺いました。中野と申します」
家に着くなり、家事代行の女性に挨拶された。
「はじめまして」
「旦那さま、今日は帰りが遅いので、私が先に部屋に案内させていただきますね」
「ありがとうございます」
着いた家はなかなか大きく、立地条件も良い。
室内もなかなか広いが、何より気に入ったのはやはり、総治郎が直生の自室として用意してくれた部屋だった。
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