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夢見る新妻

「ここが、直生さんのお部屋です」 中野に家の一角にある部屋に案内された。 マホガニー材のテーブルセットに、同じくマホガニー材の本棚やラック、タンス。 それらがバランスよくキレイに配置され、部屋に入ってきた直生を出迎えてくれた。 「広いですねえ」 これから、ここが自分の生活スペースになるのかと、直生は胸が踊った。 「ええ、新婚の奥さまのためですもの。寝室はこちらです。寝起きはここでするように、とのことです」 中野が案内してくれたベッドルームは、中央にセミダブルのベッド、ベッドサイドには白い木製のチェスト、さらにそのチェストの上には、シンプルなデザインのデスクライトが置いてある。 「わかりました」 「では、私はこれで失礼しますね。奥さまの荷物は、すべて然るべきところへしまっておきました。場所がわからなくなったら、また連絡してくださいね」 中野はうやうやしく、それでいて気さくに別れの挨拶を告げた。 「ええ、本当にありがとうございました」 中野に礼を言って、去っていく背中を見送ると、直生は部屋中を見回した。 ──ここで、あの人に抱かれるんだ… しっかり整理整頓されたベッドルーム。 この部屋で、夫婦で寝起きし、そして営む。 ──わたし、どんな風にされるんだろう… 直生はベッドに腰掛けて、まだ来ぬ夜のことを考えた。 総治郎はベッドでも寡黙で紳士的なのか、それとも野獣のように様変わりしてしまうのか。 それを考えるだけで胸が高鳴り、腰の奥がきゅんと疼いた。 反射的に、股に手が伸びていく。 ズボンと下着を脱いで下半身を晒すと、冷たい外気が脚を撫でる。 『あんッ…総治郎さん!』 妄想の総治郎が、直生をベッドに押し倒した。 大柄な体がのしかかってきて、手首がシーツに縫いつけられるようにして、強く掴まれる。 『大人しくしなさい』 妄想の総治郎が顔を近づけてきて、耳元で囁いた。 『ああっ…』 妄想の総治郎の太くて節くれ立った指が、直生の体のあちこちを(まさぐ)ってくる。 そうされると、体が嫌でも昂ってきて、直腸奥にある子宮が子種を待ちわびているのを感じた。 『ここがもう濡れているな、挿れるぞ』 妄想の総治郎が、直生の胎内に指を出し挿れしてくる。 それだけで体が快感を拾ってしまうものだから、挿入を待たずに達してしまいそうになる。 『ま、待ってください、総治郎さん』 襲いくる快感に抗いながら、直生は覆いかぶさる妄想の総治郎の肩に手を置いて、待ったをかけた。 『どうした?』 『その、わたし、初めてなので……優しくしてくださいね』 『そうか、初めてか…』 そう言った総治郎の目は、獲物を狙う猛獣のようにギラギラ光っている。 そんな目で見つめられては、身動きが取れなくなってしまう。 あとはもう、されるがままに蹂躙されるだけだ。 『あんッ、総治郎さん!』 『出すぞ、直生』 『ンンッ、あっ…はいッ、ああっ、たくさん、だして、わたしに赤ちゃんくださいっ』 総治郎がより強く体を揺さぶると、熱い精液が胎内に注がれていく。 ──やだ、わたしったら…発情期でもないのに 汚れた自分の手を見つめながら、直生はいつか来るその日を待ち侘びた。 仕事が立て込んでいるので、今日は総治郎は帰れないそうだ。 つまり、一番近くても、その日が来るのは明日の夜だろう。 そばにあったティッシュで汚れた手と陰部を拭き取ると、直生はさらにその先の未来を想像した。 ──子どもは、どんな子が生まれるんだろう? 直生は、まだ見ぬ子どものことについて考えた。 結婚したら、たくさんの子どもを生みたい。 直生は10代の頃から、そんな夢を見ていた。 直生の兄弟は、10歳離れた弟がひとりだけ。 弟は可愛かったが、10歳もの歳の差があると、どうしても距離ができてしまう。 そんなわけだから、児童の頃は寂しい思いをして育った。 だから、自分が家庭を持ったときには、たくさんの家族を持ち、にぎやかな家庭にしたいと考えていていたのだ。 ──最低でも、3人は欲しいな。それで… 生まれた子が男の子だったら、女の子だったら、アルファだったら、オメガだったら、自分に似たら、そして、総治郎に似たら… ──総治郎さん、50代であれだけカッコいいから、若い頃はきっと、もっとステキだったんだろうなあ それでもやっぱり、直生は今の総治郎がいい。 年相応の、あの落ち着いた物腰の男が、夜はどんな姿を見せるのか。 色っぽい妄想に耽りながら、直生は眠りについた。 そうして迎えた翌朝。 「必要なものや欲しいものは、全部これで買いなさい。現金が必要になったときは、私に直接言ってくれ」 総治郎がクレジットカードを渡した。 おそらく、新しく発行されたものであろう。 結婚してから、初めて交わした会話がこれだった。 「はい…」 クレジットカードを受け取ると、直生は次の言葉を待った。 「今日は都合が悪くて来ていないけど、家のことは、いつも世話になってる家事代行の中野さんに頼むといい。 電話の横に彼女が所属してる家事代行サービス会社の電話番号が貼ってあるから、家のことで困ったことがあったら、来て欲しい日時を言って呼びなさい。 優秀な人だから、きっと頼りになるぞ」 「はい」 この旨なら、中野本人から聞いた。 今のところ、家のことで困ったことは特にない。 料亭の息子なだけあって、直生は料理もできるし、洗濯や掃除だって使用人から教わっている。 だから、中野を呼ぶのは家事雑用を任せるためというより、総治郎のことについて聞き出すためだ。 それから総治郎は、ほかに何か聞きたいことはないかと尋ねてきた。 この家の勝手については事前に中野に聞いていたため、特に聞くことはなかった。 直生が「ありません」と答えると、 「今日は何時ごろに帰られるんですか?」 「あー…今日は泊まりがけの仕事だから、帰ることはできない」 総治郎は直生の顔など、ほとんど見ないで答えた。 「…そうなんですね」 「うん、だから、今日一日は私に構わず好きに過ごしなさい。この辺りはオシャレで美味い店がたくさんあるし、映画館やフィットネスジムやブティックなんかもたくさんあるから、行ってみるといい」 言っているうちに、総治郎は出て行く準備が整いつつあった。 「わかりました。いってらっしゃい、総治郎さん」 「ああ、いってくる」 そう言うと、総治郎は家を出た。 総治郎の背中を見送った後、玄関ドアがバタンと閉まり、直生はリビングに引っ込んだ。 ──今日は帰らないということは、初めては明日の夜になるのかな? このときはそう思っていたが、総治郎が帰る日はなかなかやって来ない。 そうこうしているうちに10日経った。

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