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相談ごと
これといった変化がまるでない生活がしばらく続くと、直生はいよいよ不安になり、ある疑念が浮かぶようになった。
「ねえ、中野さん。総治郎さんには、ほかに誰かいい人がいるんでしょうか?」
不安のあまり、直生は中野に聞いてみた。
結婚してからというもの、中野とはすっかり懇意になり、こうしてリビングのソファで2人仲良く並んで座って、雑談するのが一番の楽しみになっていた。
それこそ、中野を呼ぶのはもっぱら家事雑用を頼むためでなく、こうして総治郎のことを聞き出すため。
そんな用事であっても、中野はしばらく雑談に付き合ってくれて、時間が来たら帰っていく。
その親切が、今の直生には心底ありがたかった。
「いやあ、見たことも聞いたこともないですねえ。あれぐらいのお歳で地位もあるアルファの人って、案外ストイックですし」
中野はあっけらかんと答えて、中野のために用意したお茶をすすった。
「そういうものでしょうか?」
中野はそう言うものの、直生は少し不安だった。
本当に、総治郎には誰もいないのだろうか。
それに対して、中野は一通りの自分の見解を述べた後、「子どもが欲しいと言うなら自分からアプローチをした方がいい」とアドバイスしてくれた。
「旦那さまはお優しい方ですから、必ず応えてくれますよ。ああ、もう時間だから、失礼しますね。お茶ご馳走様でした」
中野はそう言うと、ソファから立ち上がった。
「あら本当。いつもありがとうございます、中野さん」
「いえいえ、それでは」
中野は直生に手を振ると、玄関まで歩いていく。
直生もそれについていき、去って行く中野の背を見送る。
「お邪魔しました、奥さま」
「ええ、さよなら」
玄関先で別れの挨拶を交わすと、直生はリビングへ戻っていった。
──自分からアプローチか…
疑念はまだほんのり残るものの、中野の言っていることも一理あると考えた直生は、どうやって総治郎との距離を縮めるか、どうやって総治郎を行為に誘うか、いろいろと考えてみた。
「そういうことの参考にできるものっていったら、やっぱり…」
ぼそりとつぶやいて、直生は自分のスマートフォンを取り出した。
そこからアクセスしたのは、アダルトサイトだった。
直生は結婚してからというもの、1日の大半をこれの閲覧に費やすようになっていた。
欲は高まる一方、総治郎には相手にされないし、有り余る熱はこれで発散させるよりほかならない。
そのおかげで、配信しているレーベルだとか、出演している女優の名前なんかも、ある程度は把握できてしまっていた。
『あなた、こんな格好……』
スマートフォンの小さな画面の中、人妻を演じる若い女優が恥ずかしい格好をさせられて、もじもじと体を動かす。
『口答えをするんじゃない』
夫役の中年俳優が女優の言葉を遮って、彼女を押し倒す。
『あっ…そんなあッ』
うんと歳上の夫に押し倒された若妻は、恥ずかしそうな素振りを見せつつも、まんざらでもない反応を示した。
歳の差がある夫婦。
借金のカタに嫁いだ若い妻は、中年夫の言いなりにならざるを得ない。
それをいいことに、夫は妻を慰み物にする。
一方で、妻はそんな夫に蹂躙されているうち、だんだんその気になっていく。
──わたしも、いつかこんなふうに…
気持ちよさそうに喘ぐ女優を見て、直生は鼓動が早くなるのを感じた。
スマートフォンの小さな画面の中、若い女優は白いベビードールと白い総レースのTバックの下着を身に着けている。
いや、正確には着けさせられて いるのだ。
『ああっ…あなた、やめてえ…』
中年夫に両足首を掴まれて、若い妻は無理矢理に大股開きさせられている。
『ここが濡れてるぞ。濡れて透けて、お前のアソコが丸見えだ』
中年夫は妻の哀願など完全に無視して、舌なめずりしながら妻を辱める。
中年夫の言う通り、妻が履いている白い下着は彼女の愛液でしとどに濡れていて、陰毛や陰唇が下着ごしにくっきり浮き出ている。
動画を見ているうち、直生の体も昂ってきた。
「ああ、だめえ…」
反射的に股に手を伸ばしてしまい、それがあらぬ動きとなって、絶頂へ導いていく。
『あ、いやあッ…はあっ、あっ…んんっ』
下着を剥ぎ取られて挿入されている若い妻は、泣いて嫌がっているのか、悦んでいるのかわからない表情で喘いだ。
『嘘をつくな。お前のアソコがオレのイチモツをぎゅうぎゅう締め付けて離さないぞ。そら、出すぞッ!』
『ああ、そんなっ、だめえ!ああーッ』
中年夫が激しく体を揺さぶると、若い妻が高い声をあげて達した。
──やだ、わたしったら、またこんな…
直生は放った精で汚れた手を見つめた。
こんなことをしている場合ではないのに。
──やっぱり、アルファやベータの男の人って、こういうのが好きなのかな?
出すものを出して冷静さを取り戻りした直生は、いろいろと考えてみた。
先ほど見ていたアダルト動画のレビューや評価、感想などを見ていると、これはなかなか評判が良い。
出演している女優の人気が高い、というのもあるかもしれないが、何よりシチュエーションだとか、「女優が下着姿にされて喘いでいるところに興奮した」という感想も多い。
──わたしがこういう格好をしたら、総治郎さんは気に入ってくれるかな?
アダルトサイトを調べたところ、女優が着ていた下着が販売されていた。
カラーバリエーションもなかなか豊富で、全部で5色。
値段はさほど高額というわけではないし、これぐらいなら咎められることはないであろう。
そう判断した直生は、おそるおそる「カートへ入れる」をタップした。
そして、いろいろ考えた後で「注文を確定」を押した。
──買っちゃった!
我ながらとんでもないことをした、とドキドキしながら、直生は商品の到着を待った。
その数日後。
注文した商品は、案外あっさり早く届いた。
直生は、実家にいた頃はネットショップなんてほとんどやったことがない。
それだけに、その手際の良さと手軽さに心底驚いた。
総治郎に勘づかれないように用心して、届く時間帯も平日の昼頃に設定してみたのだけど、問題なく手に取れた。
もっとも、総治郎は留守が多いから、時間帯の指定などしなくても何ひとつ問題なかったかもしれない。
荷物が届くなり、直生は丁寧に封を切り、中身を取り出した。
薄くて四角い段ボール箱を開けると、透明のビニールでパッキングされた白いベビードールと白い総レースのTバックが出てきた。
直生はビニールを破いてそれをゴミ箱に捨てると、さっそくベビードールとTバックを身につけてみることにした。
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