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贈り物

玄関に備え付けられている姿見の前、ベビードールとTバックを身につけた直生は、鏡に映った自分の姿をチェックしていた。 最初は前面を確認してみる。 注文したベビードールは肩紐が細く、布地が薄いので、乳首やへそが透けて見える。   今度は後ろを向き、首を半回転させて自分の後ろ姿をチェックした。 「すっごく食い込む…」 尻の合わいに入り込む細い布地を人差し指で引っ張りながら、直生はひとりごちた。 バックはもちろん、前も布面積が狭い。 直生の男根はさほど大きくはないけれど、それでもはみ出してしまいそうだ。 動くたびに股に違和感を感じて落ち着かないし、下着を左右上下に何度もずらしてみるが、なかなかしっくりこない。 ──こういうの、普段から履いてる人はすごいなあ 変な方向に感心しつつ、直生はリビングへ向かうと、リビングのソファに置きっぱなしにしていた服を拾った。 それをまた着ようかと思ったが、これはもう2日連続で着ている。 直生はめったに外に出ないし、運動などもほとんどしないから汗もあまりかかない。 それでも、同じ服を何日も連続して着るのは抵抗があるから、新しいものを持ってくることにした。 「そういえば…」 直生はふと、あることを思い出して、ウォークインクローゼットの扉を開いた。 リビングには車庫と同じぐらいの広さのウォークインクローゼットがあり、主に総治郎の服や靴、マフラーや手袋、そのほか予備の毛布やシーツなんかも置いてある。 そのはるか奥の方に、箱に入ったまま封を開けていないガウンが置いてあったはずだ。 総治郎の会社の幹部のひとりが、結婚祝いとして贈ってくれたもので、総治郎のものと直生のものとで計2枚セットになってラッピングされていた。 直生がクローゼットの奥へ入っていくと、未開封のままの祝い品が山と積まれていた。 総治郎は会長というだけあって、祝いの品の量も質もなかなかのものだった。 そのせいで、式を挙げてからその日のうちに貰ったものをすべて片付けることができなかった。 そんな経緯もあって、片付けは後回しにしようと、残ったものを全てここにしまい込んで、そのままにしてしまっていたのだった。 贈り物が入った大小さまざまな箱やラッピングバッグが、ウォークインクローゼットの片隅に寄り集まって鎮座している。 ──せっかくもらったのに、すっかり忘れてた… 贈り主に申し訳なく感じて、直生はその寄せ集めの中からガウンを拾って取った。 一度リビングに向かい、箱を開けると、小さい方のガウンを着てみた。 ──あったかいし、かわいいし、いいもの貰ったな… 淡いクリーム色のガウンは、生地が柔らかくて肌触りが良く、デザインもシンプルながら洒落ていた。 こんなにいいものをくれたのに、どうして今の今までほったらかしにしてしまったのか。 それを考えると、ますます総治郎の部下に申し訳ないと感じるようになり、直生はクローゼット内に残った祝い品の片付けをはじめることにした。 この祝い品のガウンの、なんと動きやすいこと。 片付けもはかどるし、直生はこのガウンはこのまま部屋着として使うことに決めた。 そうして直生は、あっという間に片付けを終えて、総治郎の帰りを待った。 総治郎の帰りを待っている間、直生はアダルト動画を見ていた。 実家にいるときは、こういうものを目に入れる機会などほとんどなかったから、つい夢中になっていろいろ見てしまった。 そうしているうちに、寝入ってしまったらしい。 目が覚めたら、夕方になっていた。 ──ああ、いけない! あわてて飛び起きたところ、総治郎はまだ帰っていない様子だった。 もっとも、ほとんど帰ってきたためしがないのだけど。 壁掛け時計の針は17時をさしている。 総治郎が帰ってくるのは、まだまだ早い時間帯だ。 ──とりあえず、これを洗わないと… 今さらになって、直生は自分の姿が恥ずかしくなった。 急いで脱衣所に向かうと、着ていたベビードールとTバック、ガウンをネットに入れて、洗濯機に放り込んだ。 そのとき、ほかの洗濯物もついでに洗おうと考えて、脱衣カゴに入っていた服も放り込んだ。 このとき直生は、乾燥機能がついたタイプの洗濯機でよかったと、心の奥底から思った。 もしこれが乾燥機能のついていない洗濯機だったら、必然的にこの下着を外に干さなくてはならない。 こんな下着を外に干しているところを誰かに見られたらと思うと、血の気が引く。 これからのことを考えると、近所付き合いもより濃厚なものとなっていくだろうし、変な噂を立てられたら、総治郎にだって迷惑をかけてしまう。 ──さすがに、それはマズい… 直生が勝手な想像をして、勝手に青ざめているうち、ピーッという通知音が聞こえてきた。 「乾燥が完了した」の合図だ。 直生は洗濯物を取り出すと、手早くキレイに畳んで片付けた。 結局、その夜も総治郎は帰らず、翌朝の挨拶も簡単に済まされてしまう。 毎度のことだが、これでは何の進展もないままだ。 そこで直生は、ちょうど発情期が来る頃合いに、総治郎に早く帰るように頼んでみた。 難しい頼み事かもしれないと思ったが、総治郎は案外あっさり聞き入れてくれた。 そうとなれば、後は行動あるのみだ。 そうして迎えた発情期の予測日。 直生の予想が正しければ、発情期がやってくるのは今日の夕方から夜間だ。 その間に総治郎が帰ってきてくれれば、うまくアプローチできるかもしれない。 たしか、20時から21時くらいには帰ってくると言っていた。 ──ドキドキしちゃう… 総治郎を送り出してすぐに、直生はタンスの奥にしまっていた下着をいそいそと取り出した。 どうしたわけかわからないが、送り出した際の総治郎は、いつもよりずっと上機嫌に見えた。 やはり、中野の言っていたことは正しかったのだろう。 総治郎は若い妻に遠慮する気持ちがあった。 だから、なるだけ気を遣って距離を置き、ずっと直生に手を出さないでいてくれた。 それが一変、若い妻から誘いを受けたものだから、総治郎も少しは嬉しく思ってくれたのかもしれない。 そう思うと、胸の鼓動も大きくなる。 色っぽい格好で発情期のフェロモンを利用して、「抱いてほしい」と素直に強請ってみれば、総治郎だって何かしらの反応はしてくれるはず。 期待は膨らむばかりだ。 しかし、今はまだ朝の8時半。 直生が意を決して購入したベビードールとTバックの出番は、まだまだ先のこと。 ──そうだ、ベッド周りを整えておこう!シーツと枕カバーと、毛布も洗わないとね!!

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