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そして迎えた初体験
直生は自室のシーツに毛布、枕カバーを脱衣所まで運ぶと、新しいものを引っ張ってきて、すべて取り替えた。
──総治郎さんの部屋は、大丈夫かな?
これまで、総治郎の部屋に入ったことはなかった。
自分は総治郎の妻といえども、さすがに人様の部屋に入るのは抵抗があったのだ。
当の総治郎だって、「この部屋の整理整頓だけは自分でやる」と言って聞かず、中野にも入らせなかった。
──でも、最近ぜんぜん帰ってないし、それなら、部屋の掃除もあまりできてないよね?
でも、入っていいのだろうか。
直生はしばらく悩んでから、ゆっくりゆっくり総治郎の部屋に入っていった。
部屋の中の物を極力動かさずに、軽い掃除だけをして出ていこうと考えたのだ。
初めて入ってみた総治郎の部屋は、壁いっぱいに、彼の好きな画家の絵が飾られている。
そのほか、趣味で買ったのであろう舞台役者の写真集や、演劇雑誌が入った背の高い本棚、演劇や映画のDVDを収納しているラック、そのDVDを視聴するために設置した80インチもの液晶テレビ。
おそらく、直生が嫁いでくるまでは、ほとんどの時間をここで過ごしていたのだろう。
このとき、直生はすでに総治郎が働いていないことを知っていた。
中野曰く、だいたいは趣味の演劇や映画の鑑賞、美術館や博物館なんかに行っていて、それが終わると健康維持のためジムに行っているそうだ。
これを中野から知らされたときは複雑な気持ちになったが、総治郎にも都合というものがあるし、いつでも自分の相手をして欲しいなんて言うのも、わがままが過ぎる気がした。
そんなわけで、直生は総治郎が仕事に行っているフリをしているのを黙認することにした。
直生の予想通り、総治郎の部屋はホコリっぽかった。
無理もないことだ。
部屋の主は長い間、ろくに帰ってきていないし、総治郎がまともに掃除している様子も見たことがない。
──床の掃除くらいはしたほうがいいよね
直生はリビングからフローリング用のウェットシートを持ってきて、床を拭き始めた。
総治郎の部屋はさほど広くはないから、拭き掃除もすぐに終わった。
掃除が終わった後、総治郎のベッドが視界に入った。
それに何気なく近づいていくと、かすかに総治郎の体臭がした。
あの年頃の男だけが放つ、独特の体臭だ。
直生はしゃがみ込んで、総治郎が普段使っている布団に顔をうずめた。
総治郎の体臭が、鼻から喉の奥まで沁みてきたと同時に、今夜迎える情事を想像して、胸が高鳴るのを感じた。
──ひょっとして、ここで抱かれたりするんだろうか
それならそれで、悪くない。
総治郎の臭いが沁み込んだこの部屋で、総治郎に組み敷かれる。
淫らなときめきを感じながら、直生は総治郎の部屋を後にした。
すべての部屋の掃除や洗濯を終えて、直生はリビングの壁掛け時計を見やった。
現在の時刻は18時。
総治郎が帰ってくるのは、早くてもあと2時間。
──ちょっと早いけど、準備しよう!
直生はベビードールとTバック、ガウンを身につけると、スマートフォンで動画をみた。
最近、電子書籍で読書することも多くなり、時間ができればこうして過ごしている。
「あっ!」
瞬間、腰の奥から全身が火照るのを感じた。
発情期だ。
読書を始めてから、約1時間後。
結婚してから初めての発情期がやってきた。
スマートフォンで時刻を確認したところ、総治郎が帰ってくるには、少なくともあと30分くらい待たねばならない。
──早く帰ってきて……総治郎さん!
「帰ったぞ」
約30分後、玄関ドアが開く音と、待ち侘びた声が聞こえた。
──お出迎えをしないと…
「…直生?」
総治郎が自分の名前を呼んだ。
いつもより出迎えが遅いことを疑問に思ったらしい。
直生はベッドから起き上がると、ふらつく足をなんとか動かして、自室のドアを開けた。
「総治郎さん……」
ドアをくぐって廊下に出ると、総治郎の姿がそこにあった。
「おい、体調が悪いのか?」
総治郎が心配そうな顔をした。
できるだけ平静を装ってはみたのだが、発情期で上手く動かない体を誤魔化すのは、やはり無理があったようだ。
──総治郎さん、やさしい…
総治郎の心配をよそに、直生はのん気にそんなことを考えていた。
「休んでなさい、無理して出迎えることないだろう」
総治郎が直生の両肩を掴む。
「はい…」
その優しさにすっかり安心した直生は、総治郎の広くてたくましい胸に寄りかかった。
途端、昼ごろ総治郎の部屋で散々嗅ぎ取った彼の体臭が、鼻から脳の奥深くまで突き抜けてくる。
総治郎は直生を引きずるようにして、自室に戻してくれた。
──総治郎さんの部屋でシたかったな…
あの臭いに包まれて抱かれたら、きっとものすごく幸せな気持ちになれるだろうに。
少し残念がっているうち、総治郎が自分の体をベッドに寝かせてくれた。
「大丈夫か?」
総治郎が節くれだった大きな手を、直生の額に当てた。
熱でもあるのかと確認しているのだろう。
その瞬間に、総治郎の手が、体全体が、びくりとかすかに跳ねて、息が上がりはじめた。
直生のフェロモンに反応したのだ。
それに驚いたらしい総治郎は、フェロモンにあてられないように鼻と口を手で塞ぐと、直生から離れていった。
「総治郎さん…」
直生は離れていく総治郎を止めようと、上半身を起こした。
「直生、寝てなさい!抑制剤はどこだ⁈どこに置いてあるんだ?」
総治郎が部屋のドアノブに手をかけて、出て行こうとする。
──行かないで!
なんとか阻止しなければ。
直生はもぞもぞ動いて、なんとか自力でガウンの紐をほどくことができた。
ほどけたガウンの合わせから入り込んだ外気が、直生の白い肌を優しく撫でる。
「直生?」
総治郎の戸惑う声が聞こえてきた。
「……総治郎さん、わたしのこと、オンナにしてください」
直生は、唖然としている総治郎に向かって脚を開いた。
きっと、Tバックが尻の合わいに食い込んでいるところが丸見えになっているだろうし、濡れた局部も見られている。
発情期でなければ絶対にしないような、恥ずかしい格好。
自分なりに考えてアプローチをしたつもりではいるけれど、総治郎はどう思うのか。
次の瞬間、そんなことを考える間も与えないくらいに素早い動きで、総治郎がベッドに乗り上げてきた。
同時に、ベビードールもTバックも引き千切らんばかりにして剥ぎ取られ、直生は生まれたままの姿になった。
今度は足首を掴まれて、半ば無理矢理に引き寄せられる。
「あっ…総治郎さん!」
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