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新しい試み

大成との会話を終えた後、総治郎は自分の寝室に向かった。 「あ、総治郎さん。ご友人との話し合いは済みましたか?」 直生がそこにいた。 半身を起こして、膝に毛布をかけている。 「今夜はいっしょに寝たい」なとど言うので、それに応えた形となったのだ。 「ああ」 生返事をした後、総治郎はゆっくりとためらいがちに毛布に体を埋めていった。 結婚以来、同じベッドで寝ることも今日が初めてだ。 「ふふ。ねえ、総治郎さん。もし生まれるとしたら、男の子と女の子どちらがいいですか?」 直生が総治郎の胸に身を寄せながら、問いかけてきた。 ぴったり引っついた体は、明らかに人より体温が高い。 子どものような風貌の直生だが、このあたりもなんだか子どもみたいだと総治郎は思った。 「そうだな…無事に生まれてくるなら、どちらでもいいと思う」 我ながら、無難な回答だなと総治郎は思った。 「うふふ、そうですかね」 反面、直生は嬉しそうだ。 もっとも、男の子であっても女の子であってもいいと思っているのは本心である。 直生は、大口を開けてあくびをしたかと思うと、あっという間に寝入ってしまった。 瞬く間に、規則正しく深い寝息が聞こえてくる。 立て続けに激しくセックスしたのだ。 疲労していないわけがない。 それは総治郎も同じことで、直生の深い寝息に誘われるように、睡魔が襲ってきた。 そうして迎えた翌朝、目覚めて早々に、2人はまた子作りに励んでいた。 総治郎が目覚めたとき、すでに直生は発情していて、例のごとくフェロモンに当てられた総治郎が、直生に襲いかかるようにして情事が始まったのだ。 「あんっ…総治郎さん、すごいッ、もっとお…」 総治郎が体を揺すって抽挿を繰り返すと、直生の胎内が狭まっていく。 直生の肉襞が、子種を絞り取らんばかりに男根を締めつけてきて、それがこの上もなく心地よい。 フェロモンに当てられたことも相まって、ますます腰に力が入る。 「直生、出すぞ!」 細く柔らかい脚を押さえたまま、総治郎は胎内に射精した。 「はいッ、だしてください…総治郎さんの赤ちゃんッ、わたしの赤ちゃんっ、あんっ…ああッ!!」 遅れて、直生も達した。 「はあ…」 出すものを出して冷静になった総治郎は、深いため息を吐いた。 平日の朝っぱらから、若い妻とひたすら情事に耽っているなんて、なんて自堕落な有り様であろう。 しかし、フェロモンの作用は抑えようがないし、コントロール不可能な発情期に苦しむ直生を黙って見過ごすわけにもいかない。 それに、「子どもが欲しい」と言われた以上、これに付き合うほかないのだ。 「それにしてもきみ、すごいの履いてるな」 冷静になって初めて、総治郎は直生がまたとんでもない格好をしていることに気がついた。 「これ、マイクロミニスカートっていうんですよ」 ──スカートというより、まるで腰巻きだな 直生は尻が半分出るほどに短い黒のタイトスカートを履いていて、上は白いタートルネックのカットソーを着ている。 先に目が覚めて、後で起きてくる総治郎にお披露目するために、わざわざこれに着替えたらしい。 ──そういう趣味なんだろうか? 総治郎は、この妻が未だよく理解できずにいた。 直生はどうやら、アダルト動画を見るのが好きらしい。 さらに、アダルト動画でやっているようなことを、現実の行為にも持ち込む傾向がある。 以前のきわどいデザインの下着も、いま履いているマイクロミニスカートも、わざわざアダルトサイトで購入したそうだ。 さらに直生は、コスプレ趣味というのか、なんとも卑猥な格好をしてから事に及ぶのが好きなようだ。 こんな趣味があったなんて、その育ちの良さからは想像もできなかった。 いや、ひょっとしたら、あの格式高いお家に生まれた反動なのかもしれない。 「総治郎さん、次は、こういうのをやってみたいです!」 直生が自分のスマートフォンを取り出して、総治郎に画面を向けた。 「えーと…」 総治郎が見せられたのは、いわゆる「痴漢もの」というやつだった。 OL風の格好をした小柄で幼顔な女優が、中年の男優にはがいじめにされているパッケージ写真が、画面いっぱいに表示されている。 「私、電車に乗ったことがないので、これやってみたいんです。総治郎さんは、電車に乗られたことありますか?」 直生はミニスカートとタートルネックを脱いで生まれたままの姿になると、そばに用意していたタオルで汗を拭きはじめた。 「乗ったことはある」 電車なら、若い頃に嫌というほど乗った。 20代から30代前半ごろは、まだ車すら持っていなかったから、もっぱら移動は電車やバスだったのだ。 「じゃあ、乗り方とか教えてくださいませんか?それで、これやってみましょう!」 直生が、生まれたままの姿で、体を寄せてくると、柔らかな肌の感触が直に伝わった。 「うーん…」 「お嫌ですか?」 直生が、不安げに顔をしかめる。 「嫌かどうか以前に、電車内でそういうことをするのは犯罪だぞ」 「え?」 「電車内で事に及ぶのは犯罪だと言っているんだ」 総治郎は苦笑いで答えた。 「でも、合意の上ですよ?」 「合意の上でも、だ。もしやった場合、それは公然猥褻になる」 総治郎の苦笑いが、いっそう濃くなる。 「…え?電車の中で撮影してますよね?」 「それは電車内を模したセットだよ」 「え?そうなんですか⁈」 ──この妻、いろいろと大丈夫だろうか? 中野から聞いた話によれば、直生は料理はよくできたが、その他の家事がまるで不得意だったらしい。 洗濯機の操作を覚えるのに難儀したと聞いているし、掃除機なんか触ったこともないと話していたそうだ。 それなら、家事なんて中野にすべて任せればいいのに、直生は自分でやると言って譲らない。 向上心とか自立心はあるのだ。 ただ、箱入り育ちなだけに、世間知らずが目立つ。 これから子どもを持つにあたって、総治郎はそこも心配だった。 「私、世間知らずでいけませんね…」 直生が申し訳なさそうな顔をして、ほんのり顔を赤らめた。 直生のそんな様子を見た総治郎は、昔の自分を思い出した。 自分だって若い頃、フィクションと現実の違いがちゃんと理解できなくて、他人から呆れられたことがある。 「それなら、これからわかっていけばいいだろう」 総治郎はなだめるように言った。 しばらくともにいるうち、総治郎は直生との接し方がある程度わかったような気がした。

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