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【6】突然の訪問者①

 九月下旬に入り、急きょシナリオに大幅な変更が入った。予定されていた役者二名のやむを得ない降板に伴うものだった。それと同時に勇士郎は突然の眩暈と頭痛に襲われ、体調不良を抱えた状態で原稿と格闘し続けた。  なんとか第四稿を仕上げて河合にメールで送ると、そのまま倒れるように寝込んでしまった。  起き上がれない勇士郎のために、温人はバイトを休んで消化の良い食べ物を用意してくれたり、薬や着替えを用意してくれたりと手厚く介抱してくれた。  夜、勇士郎を着替えさせ、ミネラルウォーターのボトルを枕元に用意してからベッドを離れようとした温人を捕まえて、勇士郎はぼんやりする頭で、その胸に顔を埋めた。清潔なシャツの匂いがしてひどく安らぐ。  温人は戸惑うような素振りをしたが、勇士郎の手を払ったりはしなかった。  優しい手が勇士郎の髪や肩を撫でてくれると、ものすごく満たされて、身体中の細胞が癒されてゆくのが判った。  「そばにおってくれたら眠れる気がする」と言うと、温人は黙ってベッドに入り、勇士郎を抱き締めてくれた。  その優しい腕の中で、勇士郎はかつてないほどに穏やかで、深い眠りに落ちていった。  その数日後、ニュースで中秋の名月だと知り、快復した勇士郎は、温人とお月見をすることにした。  温人が昔よく、祖父母と昔ながらのお月見をしたというので、ススキとお団子を用意しての本格的なお月見だ。  夕食後、それぞれ風呂に入ってさっぱりしてから、ベランダに出た。  よく晴れた夜空は雲もほとんどなく、まんまるに満ちた大きな月が神々しく輝いている。  今日はワインではなく、日本酒を用意した。なみなみと注がれた杯に、月を映して乾杯する。 「旨い!」 「旨いですね」  顔を見合わせて、二人でフフ、と笑った。  しばらく綺麗な月をうっとりと眺める。 「オレらって大人やなあー」 「なんですか、それ」  温人が楽しそうに笑うので、勇士郎も楽しくなってはしゃいでしまう。 「だって月見酒とかしてまうんやでー、大人やーん、めっちゃええカンジ~、おっしゃれ~~」  たった一杯の酒ですでにご機嫌な勇士郎を、温人が面白そうに見ている。細められた目がとても優しくて、まるで歳の離れた兄が稚い弟を見るような、慈しみ深い眼差しだ。  勇士郎は火照るほっぺたをベランダの柵の上に押し付けるようにして、上目づかいに温人を見た。 「なぁ、……温人って、ええ名前やな……、なんか優しいカンジして…オレ、すごい好き」 「……ユウさん、ちょっと、あんまり……、かわいいこと言わないでくださいよ」  温人がうろたえたみたいに言うので、勇士郎はもっと楽しくなって、温人の太い腕にしがみつき、立ったままゆらゆらと揺れた。 「なんでぇ? ほんまのことやもーん……」  頭をがっしりとした肩にもたせかけて、はると…はると…、とトロンとした目で何度も呼ぶ。  すると温人は杯の残りを飲み干し、簡易テーブルの上に置くと、いきなり勇士郎のちいさな肩を包むようにして腕の中に抱いた。 「え…っ、なに」 「ユウさん、絶対、外で酒飲んだらダメですからね。ほんとに」  少し怒ったような声で温人が言う。すっぽりと腕の中に包まれて、勇士郎は酒のせいだけではなく真っ赤になった。 「打ち上げとかあるんですよね? ドラマが終わったら」 「う、打ち上げなんてせえへんよ、たぶん。二時間ドラマなんてお金ないもん」 「ほんまですか」 「ほんまや。……なんで関西弁やねん」  フフと笑うと、更にきつく、愛しげに抱き締められた。  どきどき、どきどき、と胸が激しく脈打つ。それは頬を寄せている温人の胸からも同じように伝わって来た。 「ユウさん、お願いがあるんですけど」 「な、なに?」 「この前、ユウさん抱っこして寝たら、悪い夢見ないでぐっすり眠れたんです。だから、……」  そこで言葉を止めてしまった温人に、勇士郎は熱く潤む目をぎゅっと閉じて、うん、ええよ、と言った。  お月見を終えて、リビングでもう少しだけ飲んでから、二人はいつもの元栓確認をして、勇士郎の部屋に向かった。  勇士郎が壁際になり、温人が勇士郎を後ろから抱く形で横になる。薄いブランケットを腹の上に被せて、重なったスプーンのようになった。 「あの…、せ、狭ない?」 「大丈夫です、ユウさん小さいから」 「小さい言うな」  男っぽい匂いと、勇士郎をすっぽり包み込めるほどの大きな逞しい身体に密着されて、自然と身体が昂ってしまう。  いつもは風呂で、ガタイのいい男にちょっとひどいことをされるのを想像して抜いていたが、温人が来てからは、声が漏れるのを怖れてまともに自慰もしていない。ハッキリ言って生殺し状態だ。  温人の息が首筋辺りにかかるたびに、ゾクッと何かいけないものが身体の中心を駆け上がり、腰がズンと重くなる。今更ながらに無謀だったと勇士郎は激しく後悔し始めていた。 「あの…、オ、オレって、そういう人やから、男にこういう風にされると、そ、そういう風になってまうけど、あの、気にせんといてな。あ、でも、イヤやったら離れるし…、」  どうやっても欲望が育つのを抑えられなくて、ほとんどパニックになったみたいに焦って言う。本当に突き放されたら、きっと凄く傷つくのが判っているのに。 「……大丈夫です。俺もおんなじだから」 「え?」  涙目で振り向くと、温人が苦笑していた。 と、思った瞬間に、とても硬くて大きいモノが、勇士郎の太腿辺りに触れる。 「え……、」 「すみません」  温人が苦しげに言うのを聞いて、勇士郎はカアアッと赤くなった。 「あ、…ハハ…ッ、な、なんやオレら、二人とも欲求不満やな」 「……ですね」  勇士郎は涙が出るほどホッとして、しばらく黙り込んだあと、思い切ってぐるんと身体を回転させ、温人と向き合った。 「え、えっと……、しよ…か?」 「えっ」  うすぼんやりと灯りが点るなか、温人が目を大きく瞠る。 「あ、違っ、じゃなくて、……手、…で、したろか……?」  言いながら、居たたまれなくなって温人の胸に顔を押し付けてしまう。その胸がさっきよりも激しい鼓動を響かせていることに気付き、ますます勇士郎も顔を火照らせた。 「じゃ、……ユウさんのも……」 「う、ウン、……いっしょに、しよか」  しばしためらったあと、勇士郎はそっと布越しに温人の昂りに触れた。想像以上の立派さにドクンッと一つ、大きく心臓が跳ねる。それはひどく熱を持って、窮屈そうに己の存在を主張していた。 「お…おっきい…温人の、」  思わず零すと、温人は小さくうなり、いきなり性急に勇士郎のパジャマの下を下着ごと引き下ろした。 「あっ」  その摩擦が一瞬の鋭い快感を呼ぶ。その声に興奮したように、温人は自分の下も膝あたりまで一気に下ろして、勇士郎の手を取ると凶悪なモノに導いた。 「ひっ」  もうすでに、完全に近い形にまで育っているそれは勇士郎の手に余るほどに太く、染み出たものでぬめって、息を呑むほどに生々しかった。  驚きに固まっているうちに勇士郎のモノも大きく分厚い手に包まれて、すっぽりと覆われてしまう。 「ひやぁっ、あ、ああっ」  久しぶりの他人の手の感覚に、眩暈がするほど高揚する。 「ああっ、あ、あか…ん、そ…んな、したら……すぐ、出ちゃ…はあっっ」  激しい快感に先端からいやらしい液がとろとろと、とめどなく零れ落ちて、長い指にしごかれるたびにぬちゃぬちゃと耳を塞ぎたくなるような卑猥な音を響かせた。 「いや、いややっ…はると…、はるとっ」 「ユウさん…?」 「なんか言うて……、温人、……こわい……っ」  ほとんど泣きそうなかすれ声でちいさく言うと、勇士郎の手の中のモノがグンと肥大した。 「あっ、おっきなっ、…はると、……はる…な、なあ、……ちゃんと、きもちええ……?」 「ユウさん……かわいすぎる、……ぅッ」  温人がたまらないといった様子で低くうめき、勇士郎の腰を片手でぐっと引き寄せると、互いのモノを擦り合わせるように激しく腰を動かした。 「あああーーっ、やっ、あ、ぁっ、はっ、はるっ、も、も、あかん、イく…出ちゃ…出ちゃ…――ッ」 「ッ……ユウさん…っ」  頭の中が真っ白に弾けた瞬間、どぷりと大量の生温かい汁が、ふたりの手の中に吐き出された。 「ぁ……あ………」  激しい快感の余韻に勇士郎はぶるりと身を震わせる。温人はヘッドボードの棚に置かれたティッシュに手を伸ばし、重ねたそれで二人の濡れた手と脚の間を拭った。 「ぁ…んっ」  温人の手つきは優しかったが、まだ敏感なままの勇士郎のそこは、ほんの少しの刺激にさえ反応してしまう。 「ユウさん……」  温人が喉にからんだような声で低く呼ぶ。  その声にさえ感じ入って、勇士郎はぎゅっと目を瞑った。淫らな身体が恥ずかしすぎて泣きそうになる。 「き、……キライに、なってへん……?」  勇士郎がちいさく言うと、温人がいきなり強く抱き締めてきた。 「なるワケないでしょう」  少し怒ったみたいな声だ。でもそれは不思議と勇士郎を安堵させてくれる。  温人はそっと勇士郎の下着とパジャマのズボンを引き上げてくれたあと、自分も下着とズボンを元に戻して、一度ベッドを離れた。  それから濡れタオルで勇士郎の手を丁寧に拭き清めてくれたあと、今度は背中からではなく、向き合うようにして勇士郎を腕に抱いてくれた。

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