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星空の下での決意⑥

辺りは自然ばかりで、誰かに見られるような心配はない。見られたとしても暗闇だから特定はされないだろう。渉太はそろりと律仁さんに近づくと左手に自分の右手を重ねた。 「渉太。俺も今、凄く手繋ぎたいと思ってた」 渉太の手の感触に気づいた律仁さんが嬉しそうに微笑む。律仁さんと同じことを考えていたことが嬉しくて勇気を振り絞って行動をして良かったと思った。正直、恥ずかしいけれど好きな人の手は温かくて心地がいい。  特別会話をするわけでもなく、唯ひたすらに当てもなく湖畔を歩いていると、木造の船着き場のある、ひらけた場所で律仁さんが立ち止まった。 冬の間は閉鎖しているボート乗り場。夏場はカップルなどが乗りにくるのであろう。 いつか自分も、今度は冬ではなく夏に来られれば……なんて浮かれたことを考える。ふと律仁さんの方を見ると横倒しに置かれた切り株のベンチに腰を掛けていた。名前を呼ばれて隣に座るように促される。 渉太は黙って彼の隣へと腰かけると「しょーたっ」と律仁さんに話し掛けられた。 「なんですか?」 「ありがとね。渉太のおかげで、今日は沢山息抜きができたよ」 「それは……。良かったです。目的は先輩と尚弥だったけど、ここ最近多忙だった律仁さんの気が休まればと思っていたのもあったので……」  律仁さんの温かい掌が渉太の頭を包み優しく撫でる。普段であれば周りを気にして拒否していたことだが、今日は何も気にしなくていい。擽ったい気持ちでいっぱいになりながら渉太は規則的に撫でられている心地のよさを噛みしめていた。 「でも、御酒は程ほどにしてくださいね」 「はいはい、大丈夫。もう酔いは醒めたから」  酔っぱらって呂律が回らなくなった律仁さんは正直可愛くてたまらなかったが、嗜む程度なら問題はないが、深酒は体に毒と耳にしたことがある。   会えていないときの日頃の彼を知っているわけではないが、仕事においてそれなりの疲れやストレスを抱えていることを知っているからこそ心配になる面もあった。  そんな渉太の心配も知らずに、律仁さんは適当にあしらうように笑って返してくる。  静寂の中で穏やかに揺れる水面をぼんやりと眺めていると、律仁さんが「ねぇ、渉太」と少し低めの声音で話し掛けてきた。  目線を律仁さんへ移すと、両膝に肘を置いて祈るように手のひらを合わせていたことから只ならぬ雰囲気を感じる。単なる世間話ではないような気がして、渉太も軽く返事をすると背筋を伸ばして彼の言葉を待った。

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