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幸せな記念日 ①
思い悩みながらも決断をした四月下旬。とうとう律仁さんと交際して一年記念の日になった。バイトはしっかり休みを取ったが、大学は通常通り授業があったので、大学を終えてから律仁さんが自宅まで迎えてくれることになった。
授業を終えると自転車を飛ばして自宅へ帰り、身支度をする。姿見を見ながらこの日の為に用意した洋服に袖を通した。
大学生のなけなしのバイト代だけでは律仁さんのように格好いい大人の男性にはなれなくても、渉太なりに選んだ勝負服。襟元にボリュームのあるタートルニットに茶色のニットブルゾンジャケットに黒いワイドパンツ。普段のパーカーよりはマシな格好だと思いたい。
髪型を整えているうちに律仁さんから連絡が入り、外へ出ると見慣れた車がアパートの前に停まっていた。助手席の窓を開けて微笑んで手を振ってくる律仁さんに照れを覚えながら乗り込むと、律仁さんもいつもとは少しだけ違う装いにドキドキさせられた。
ハットのない、前髪を下ろしたウェーブのあてられた髪の毛。シンプルなのにグレーのテーラードジャケットだけでもお洒落な彼は眼鏡以外、ほぼ完璧な姿だった。
そんな律仁さんに終始緊張しながらも彼が今日の日の為に予約してくれたという、ホテルのディナーで記念日を御祝いした。
ホテルでディナーというだけでも身が竦む思いでいるのに、十年前の今日の日付であるワインをプレゼントされて、いつの間に手に入れたのかと思うほど、律仁さんのサプライズに逐一驚かされた。
食事のあと、最上階にあるスウィートルームでゆっくり二人の時間を過ごすことになり、部屋のテーブルに先ほどのワインとケーキを並べて律仁さんと向かい合って座る。
「なんか、俺ばっかり律仁さんから貰っていて申し訳ないです……。二人の記念日なのにネックレスだけって……。子供だましですよね」
渉太は肩を竦めて目を伏せながら深々と頭を下げた。記念日に何も用意をしていなかった訳ではない。渉太なりに考えて、ペアのネックレスを用意し渡したものの、律仁さんのプレゼントとは桁が違い過ぎて恥ずかしくなった。
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