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幸せな記念日④

渉太は静かに頷いて律仁さんの握られた手の上から自分の左手を重ねる。 ここ一年間彼と過ごしていくうちに彼のことが分かってきていた。 律仁さんは自由奔放の一面があるけど、公私をしっかり分けられる誰もが憧れるような大人であることには変りない。 そんな彼であるけど、本当は弱い一面があること。人一倍寂しがり屋であることを渉太は知っている。だから、この決断が決して後ろ向きのものではないことを教えてあげたい。 「確かに、日本から出れば堂々と律仁さんと出掛けることができて、一緒に暮らせて幸せかもしれないけど、それだと俺はきっと律仁さんに甘えてしまうんです。大丈夫だなんて確証はないんです。そんなの自分が許せないから……。だから、ちゃんと俺が一人前になって律仁さんを守れるような人間になれたら、律仁さんを迎えに行きたいと思っています。だから律仁さんは律仁さんの道を歩んでいてほしい。俺、釣り合える人になれるように努力してみせるんで信じて待っていて欲しいです」  どう釣り合いをとれる人間になるかなんて明確なことは決まっていないけど、これが現段階で伝えられる渉太の想いだった。 意志を告げた直後に伏せられてしまった瞳に一瞬だけ不安を覚えたが、すぐに顔をあげて「……分かった」と頷かれたことで安堵する。 「渉太がそこまで言うなら、俺は信じてるよ」 「はい、信じてください。律仁さんよりも格好いい男になってみせるんで」  ずっと憧れの存在ある律仁さんより格好良くなれるとは思えない。最後の言葉は、軽い冗談のつもりで、はにかんで見せるとそれにつられるように律仁さんも肩を落として笑ってくれた。 「これ以上、渉太が格好よくなったら俺、一生離したくなくなるかもよ?」 「その為に、努力したいんです。俺だって律仁さんみたいなカッコいい男にならせてさせてください」  重ねていた手が引き抜かれたかと思えば、頭を撫でられる。我ながら高慢な発言だと自覚はあって恥ずかしいけど、律仁さんに理解して貰えたようで安堵した。好きだからこそ、意見が食い違うこともあるかもしれないけど、律仁さんとなら乗り越えられる。 「あーもう、これ以上どころか今のままでも渉太のこと離したくない。けど、俺も渉太の意志は尊重したいから離れていても頑張るよ……。でも、いつでも気持ち変わったらウェルカムだからね?」 「それは……。俺が気持ち変わると思いますか⋯⋯?」 渉太は野暮だと分かっていたも意地悪く首を傾げて返答すると律仁さんの手が右頬に添えられたかと思えば、右頬を軽く抓られて「はぁ⋯⋯。そんな頑固なとこも好きすぎるんだけど」と理不尽に彼に怒られてしまったが、心なしか呆れ笑顔の彼に渉太の口元が自然と綻んでいた。

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