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冒険者って憧れるよな③

「駄目だよ」 「なんでだよ!」 ダリウスに一刀両断されて、ワクワクが半減してしまう。 「冒険者はとても危険な職業なんだ。魔物に襲われて取り返しのつかない事態になったらどうするんだい」 「そ、それはそうだけど。どんなことにだってリスクは伴うはずだろ」 「一理あるね」 リアムが俺の肩を持ってくれて少しだけ調子を取り戻す。ダリウスは俺が外へ行くのをすごく嫌がる。まるでなにかに怯えているみたいだ。 「リアム、クリスの肩を持つのはやめてくれ。俺はクリスが怪我をするところなんて二度とみたくない」 「怪我ぐらいするだろ!それに俺は男なんだぜ?見ろよこの身体!細マッチョ!ムキムキだぜ!身長だってお前よりかは低いけど、リアムよりは高いし、過保護にされる意味がわかんないだろ」 言いながら袖を捲ってマッスルポーズをしてみたり、シャツを捲って腹筋を晒したりしてみる。 「さりげなく僕を貶す(けなす)のはやめてくれ」 リアムがそう呟くから、謝ろうとしたらダリウスが素早い動きで捲れたシャツと袖を整えてきた。少し困った表情を浮かべているのが新鮮でまじまじと見てしまう。 「人前で素肌を晒したら駄目だよ」 「男しか居ないしいいだろ」 「……君はΩなんだ。自覚を持たないと」 「んー、わかったよ」 Ωとかっていまいちピンと来ないんだよな。 そもそもダリウスはちょっと過保護すぎる気がする。初めはおかしな奴だと思ったけど、それはクリスにだけ限定なのかもしれない。 「冒険者の件だけれど、心配ならダリウスも復帰したらどうだい」 リアムの言葉にダリウスが眉を寄せたのがわかった。 たしかに心配ならダリウスも一緒に冒険者になればいい。監視されるのは嫌だけど、そのくらい我慢出来る。 「リアム、俺が冒険者を辞めた理由はわかっているだろう」 「そうは言っても、君の運命の番は今にでも冒険者ギルドへ飛び出していきそうだ。見ておかなくていいのかい」 リアムの言う通り、正直今すぐにでも飛び出して冒険者になりたい。この世界がどんな所なのか、情報を収集するのにもギルドは良さそうだ。漫画とかでもそうだしな。 「……はぁ、わかったよ。それなら一つ条件があるんだ」 「条件?」 「君からキスして欲しいな」 「はあ!?」 また変なこと言い始めやがった。リアムも居るのになに言ってんだこいつ! 思わず一歩後退ると、室内が狭いせいか腰に机が当たって鈍い音が響いた。距離を詰めてきたダリウスが顔を近づけてくる。 「キス一つで冒険者になれるなら安いだろう」 「い、いや、リアムも居るし……」 チラリとリアムの居た方を見たら、忽然(こつぜん)と姿が消えていて驚く。 あいつ逃げやがった! 「どうやらリアムは出かけたようだね。これで問題はないね」 問題大ありだろ!俺、こいつとは今日が初対面のはずなんだけど!? 迫ってくる美形を見つめながら、変な唸り声を上げる。でも、余裕の笑みを向けられるだけで解決にはなっていない。 「あー、もう!」 勢いよくダリウスの頬に唇を寄せる。歯が当たった気がするけど気にしない。無理強いしてきたダリウスが悪いし。 寄せていた唇を離すと、クスクスと嬉しそうに笑みを零しながら自身の頬に触れるダリウスが視界に入ってきた。 「今はこれで我慢してあげるよ」 思わず睨みつけてしまう。なんだよって。 心の中で悪態ついてやると、手が顎に伸びてきて上を向かされた。疑問に思って尋ねようとした刹那、顔が近づいてきて唇同士が触れ合う。 「んっ!」 「キスっていうのはこうするんだよ」 文句を言おうと開いた口の中に舌が潜り込んでくる。人肌を舌先から直に感じたかと思うと、くちゅりと水音が耳に届き恥ずかしさに顔が熱くなった。触れられたところから電流が走るような感じがして、おかしくなってしまいそうで怖い。 それなのに、もっとして欲しいとねだりそうになるのはどうしてなんだ。

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