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交換条件と威嚇④
「君と私の出会いの証だと思って受け取って欲しいな」
「……そこまで言うなら……」
あまりにも真っ直ぐな言葉に、頷くことしか出来ない。返事を聞いて嬉しそうに微笑みを浮かべたエドがすぐに店員を呼んで会計を済ませてしまった。
受け取った装備を着てみると、サイズもピッタリだし着心地がめちゃくちゃ良い。嬉しくて顔がほころぶ。
「ありがとうな」
「ふふ、どういたしまして」
設置されていた姿見鏡の前でクルクルと回りながら、全体を確かめる。クリスの銀髪によく映えるデザインだ。前世の俺の姿だと着られちゃってる感が出そうだけど、クリスは凄く様になっている。
すごく気に入った。
装備の上からマントを着ても動きやすい。マントの色もブルー系だから馴染むしいい感じだ。店員にバレないように試着室でフードも被って置いた。エドには顔がバレてしまったけど、周りの人にはバレないようにしないといけない。死んだはずの騎士団長が生きてるなんて知られたら、流石にやばそうだからな。
「それじゃあ、今からは私にライト騎士団長の時間をくれるかな?」
「約束だしな。どこに行くんだ?」
「私が普段暮らしている別邸が近くにあるんだ。良ければそこに行って話をしたいな」
「いいぜ。ただ、あんまり時間なくてさ。すぐ帰らないといけなくなるかも」
「突然誘ったのは私だからかまわないよ」
エドは優しいやつなんだろうな。
ダリウスのことは気になるけど、折角知り合いになれたんだしもう少しエドと話をしたい。それに、クリスのことも聞けるかもしれないしな。
「クリスって皆に好かれてたのか?」
店を出て通りを進みながら尋ねる。これからクリスの身体を借りて一生を過ごしていくのなら、本人のことは知っておきたい。
「そうだね。彼はとても優秀で心優しく、周りから慕われていたよ」
「そっか。俺にはそんな風になるのは無理だ」
そもそも真似をする気もない。でも、ダリウスはそれを求めてるのかもしれないと思うときはある。あいつが俺を見るときは、いつも俺の中にあるクリスの面影を探しているのがわかるから。
俺はクリスじゃない。見た目だけが本物の別人だ。だから、ダリウスが俺のことをクリスと呼ぶ瞬間が少しだけ嫌なんだ。別にダリウスのことなんて好きじゃない。変態だし、過保護だし、口を開けば結婚の二文字が飛び出してくるし、変態だ。
でも、胸がモヤモヤするんだ。運命の番の効果なのかな。俺自身のことを知ろうとしてくれないことが歯痒い。
未だに俺の本名も知らないんだろうなあいつは。
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