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交換条件と威嚇⑥
「クリス!??お前っ、クリスだよな!!?」
グワングワンと激しく肩を揺らされて、若干酔いそうだ。
「っ、あんたが思ってるクリスとは別人だよ!とにかく揺らすのをやめてくれっ」
この馬鹿力めっ!若干肩が痛い。
興奮しているジェイデンをエドがなだめようとしてくれるけど、全然落ち着く気配がない。それどころか目に涙まで溜めていて、今にも泣き出しそうだ。
「お前の葬式のあとに、ダリウス様がお前の死体を引き取ってそれっきりどうなったのかもわからなかったんだぞ!生き返ったのか?蘇生魔法なんて夢の話だと思ってたけど、本当に存在したんだな!!S級冒険者はやっぱり人知を超えた存在ってことかよ!」
でかい声でマシンガントークをされて、耳がおかしくなりそうだ。別人だって言ってるのにまるっきり聞こえてないみたいだし。
ちゃっかり聞き流しかけてたけど、ダリウスのやつ葬式のあと死体を持ち帰ってたのかよ!だから、魂を呼び戻す儀式を屋敷で出来たんだな。
「ああ!もうっ!お前マジで落ち着けよ!見た目はクリスだけど俺はクリスじゃねーの!」
この世界に来て何度このやり取りをしたかもわからない。いい加減疲れてきたぞ。
ようやく声が届いたのか、揺れが止まる。
「クリスじゃ、ないのか?」
次は顔をペタペタペタペタ触られて、直接確認してくる。気持ち悪いったらない。
「気持ち悪い!やめろっ」
振り払ったら、避けられて距離を取られた。
「おっと、たしかにクリスはそんなに荒々しくないな。あいつは聖母様みたいなやつだった。ちょっとお硬かったがな」
「ようやくわかったか。はー……なんか疲れた」
でも、こいつと話してるときが一番素を出せる気がする。やっぱりクリスの親友だからか?
「満足したかいジェイデン騎士団長」
「お騒がせしてしまいました。通っていいぞ」
ようやく許可が降りて安堵した。
てか、今気づいたけどジェイデンがクリスの後を引き継いで騎士団長してるんだな。親友の後釜なんてどういう気分なんだろう。
聞いてみたいけど、俺が聞くことじゃないよな……。
「行こうか」
「おう」
エドと並んで一緒に門をくぐろうと一歩踏み出した。その瞬間、風が頬を撫でた気がして振り返る。
「王子下がって!」
ジェイデンが俺達を庇うように剣を構えた。
その切っ先に、見覚えのある人物が立ってるのに気がつく。なんだかすごく怒っているように感じる。雰囲気が怖い。
「ダリウス!」
思わず名前を呼ぶと、剣呑な雰囲気を纏っていたダリウスがゆっくりとこちらへと近づいてきた。
「この国の王太子様に殺気を放つなんて、なにを考えているんだ!」
「それはこちらの台詞だよ。彼を連れ回してなにをしているんだい」
穏やかな口調なのに、怒気が含まれていて肌がピリピリする。これが殺気ってやつなのかもしれない。
「ダリウス=エドモンド。十年もの間、顔を見せなかったから死亡説まで出ていたけれど、生きていたんだね。ライト騎士団長の亡骸を無断で持ち帰った罪については、目を瞑ってあげたというのに、次はなにを仕出かすつもりだい?」
エドの言葉にわざとらしく肩をすくめてみせるダリウス。
「クリスは俺の番だ。亡骸を引き取るのは当然の権利だよ。それに、今回は彼を迎えに来ただけだからなにもしない。貴方が彼と関わっていることについては許容出来ないけれどね」
「……まだ私のことを恨んでいるんだね」
「恨む?それは違うな。俺はクリスを見捨てた全員を許さないというだけの話だ」
二人がなにについての話をしているのかはわからない。なのに、どうしてこんなにも胸が痛むんだ。
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