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甘いお薬をどうぞ①

ギルドに着く頃には辺りは夕陽に包まれて茜色に輝いていた。ダリウスがアリスちゃんにドラゴンの卵の件を伝えると、すぐにギルド長室へと通された。 俺は居ても邪魔になるから、受付前の空いている椅子に腰掛けて待つことにする。 本当は俺も説明とか出来たらいいんだけど、ランクが低いから仕方ない。 ダリウスにばかり迷惑をかけているから申し訳ないと思ってしまう。 「一人だなんて珍しいね」 声をかけられて顔を上げると、リアムが立っていて嬉しくなる。一人で待つのは退屈だと思っていたから。 「ダリウスとダンジョンに行ったんだけど、そこでドラゴンの卵の殻を見つけたんだ」 「ドラゴンの卵かい?それはまた驚きだね」 「だろ。びっくりするだよな。それで、ダリウスはギルド長と話しをしてる最中なんだ。リアムはどうしたんだ」 「僕は、これを持ってきたんだ」 言いながら、懐から石のはめられた機械のようなものを取り出したリアム。まじまじと観察してみるけど、なにに使うものなのかはまったくわからない。 「なにそれ」 「索敵装置だよ。この間取ってきてもらった魔素石を使って使ったんだ。危険地帯などで環境調査をするときに用いるだよ。魔物の魔力量を測ったり、生体の記録を撮ることができるんだよ。丁度ダンジョン調査のために作るように頼まれていたんだ」 「すごいな。リアムはそんなものも作っちまうのか」 家に入れてもらったときに、実験が好きそうなのはわかっていたけど機械まで作れるなんて思っていなかったから純粋に感心してしまう。 「ついでにこんな物も作ったから君にあげるよ」 「なんだこれ?」 液体の入った小瓶を手渡されて首を傾げる。 薄いピンク色をしていて、すごく甘そうだ。 「魔素石の中に閉じ込められていた木の根で作ったんだ。魔素石に封じ込められていたから、面白い効果が付いていてね。ぜひ君とダリウスに試してもらいたいな。どうやら関係は良好なようだし」 「へえ〜、どんな効果なんだ?」 小瓶を軽く振ると液体が中で揺れる。その様子を眺めながら、軽い気持ちで尋ねる。 「媚薬だよ」 「ほへ〜、媚薬か……って、はあ!??」 驚きすぎて瓶が下へと落下する。やばい!と思って手を伸ばしたけど間に合いそうにない。床にぶつかると思った瞬間、ひとりでに瓶が浮いて俺の手元へと返ってきた。 「気をつけてね。とても貴重な品なんだから」 「ご、ごめん。でも、媚薬なんて渡されても困るし……」 「たまには趣向を変えてみるのも一興だろう?」 耳元で囁かれて顔が真っ赤になる。リアムの流し目や声がやけに色っぽくて更に全身が熱くなったような気がした。色事には無頓着そうなのに、どこか楽しげな様子でからかってくるから負けた気にさせられる。 「……一応貰っといてやるよ」 なのに、まんまとつられてしまう俺。 悔しいけど媚薬って聞くと気になってしまう。 「使った感想聞かせてね。僕はそれさえ知ることができればいいから」 満足気な様子で立ち去っていくリアムをジト目で見つめながら、軽くため息をこぼした。実験台にされたのだとわかると、ため息が深くなる。 これは棚の奥にでも隠して見つからないようにしておこう。ダリウスが飲んでくれるとも思えないし。

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