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甘いお薬をどうぞ②

媚薬を眺めながら考えを巡らせていると、ギルド長室からダリウスが出てくるのが見えた。咄嗟に媚薬を後ろポケットへと隠す。 「お待たせ。ウェアウルフの依頼報酬も受け取って置いたから帰ろうか」 「ありがとうな。ドラゴンの卵についてはなんかわかったのか?」 「調査団をダンジョンへ送るそうだよ。俺とリアムも行くことになった」 「……そっか」 俺が行っても足でまといになるのはわかっている。だから、ついて行きたいなんて言えないよな。 「ついてきたいって顔をしているね」 「……あはは、バレたか。どうせ駄目だって言うんだろ。ちゃんとわかってるって」 ただ、怪我をしたりしないか心配なんだ。ダンジョンで感じた嫌な気配が忘れられないから。 「俺が調査に行っている間は、エド王太子の元にいて欲しい。彼を信用しているわけではないけれど、一人にするのはもっと怖いからね」 「わかったよ」 ダリウスがエドを頼るってことは、相当やばいってことなんだろう。 今回ばかりは、ちゃんと言うことを聞いて大人しくしておかないとな。 「ところで、なにを隠したんだい」 「えっ……」 良い笑顔で尋ねられてたじろぐ。 まさか見られていたなんて思わなかった。動体視力どうなってんだよ。 「あ〜……いやー、ナンデモナイヨ」 媚薬を貰いましたなんて言えるわけない。 しどろもどろに誤魔化すと、ダリウスが微笑み返してくれる。 (もしかしてごまかせたのか?) ぎこちなく引き攣った笑みを返すと、ダリウスの手がポケットへと伸びてきてあっさり媚薬を抜き取られてしまった。 驚きすぎて固まる。隠した場所まで知られてるなんて流石に思わないだろ! 「これは回復薬ではなさそうだね。リアムが愛用している瓶が使われているところを見るに、調合したのはリアム本人だろう。実験好きな彼のことだ、危険な薬かもしれないし、これは俺が預かっておくよ」 「えっ!?」 思わず大きい声が出る。ちょっとだけ試してみたかったからだ。媚薬って言われたら気になるのが男のさがってもんだろ。 なんとか取り返したくて手を伸ばす。でも、簡単に避けられてしまって、取り返せそうにもない。 「そんなに必死に取り返そうとするなんて、一体中身はなんなのかな。帰ったらゆっくり聞くとしよう」 鞄に媚薬をしまったダリウスが俺の手を引いてギルドを後にする。 内心冷や汗でいっぱいなのに、無慈悲にもあっという間に屋敷へと到着してしまった。リアムのやつまじで恨むからな。 リビングに備え付けられているアンティークソファーに腰掛けると、ダリウスも隣に座り鞄から小判を取りだした。証明に照らされてキラキラと輝く薄桃色の液体を不安な面持ちで見つめる。 小判の蓋を開けたダリウスが鼻を近づけて匂いを確認し始めた。ふわりと甘い香りが漂ってくる。バニラにも似た柔らかくもハッキリとした香りだ。 「甘いね。どれ……」 「わー!なにやってんだよ!!」 瓶に口をつけて味を確かめるダリウスを、慌てて止める。まさか自分で飲むなんて思っていなくて、焦りまくってしまう。 「毒はなさそうだけれど……っ……なんだか熱いね……」 超即効性なのか、頬を蒸気させるダリウス。切なげな瞳がやけに色っぽい。見ているだけで変な気分になりそう。 「これは媚薬、かな。……その反応、中身を知っていたんだね」 「それは、その……リアムが……」 「はぁ、お仕置が必要なようだ」 「へっ……ちょっ、ダリウス、さん……?」 瓶の中身を一気に仰いだダリウスが覆いかぶさってくる。瓶が床に転がる音と、背がソファーの座面に着く微かな音が重なって聞こえた。

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