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いざっ、出動!①

エドの屋敷に世話になって三日程が経った頃、暇つぶしに買い物へ出た。 あてもなくブラブラしていると、外へ続く大門がやけに騒がしいことに気がついて近づく。見覚えのある黒髪が見えて立ち止まる。その背に包帯を巻かれたリアムが担がれていることに気がついて、一気に血のけが引いた。 「なにがあったんだよ!!」 人混みを掻き分けてダリウスの元へ近づく。 至近距離で見ると、ますますリアムの怪我は酷いことがわかった。 「説明している暇がなくてね。手伝ってくれるかい」 「おう」 ダリウスが背からリアムを降ろす。両側から肩を貸して支えてやると、できるだけ急いでリアムの家へと向かった。 応急処置はダリウスがしてくれていたから、ベッドへと寝かして部屋を出る。 「なにがあったんだ?」 「最下層の調査を行うために足を踏み入れたら、ダークナイトドラゴンと遭遇したんだよ。闇を纏ったドラゴンだ。ダンジョンで産まれ、魔素を大量に吸収して育ったために通常種のドラゴンよりも強固でね。厄介な相手だよ」 「そいつにリアムはやられたのか?」 「心配しないで。回復魔法を得意とする聖魔法使いが治癒をかけてくれたから命に別状はないよ」 安心させるように穏やかな声で教えてくれる。でも、不安で仕方ない。リアムは眠ったままだし、声すら聞けていない。それに、最強のS級冒険者でも太刀打ちできない相手がいるなんて……。 「魔物の異常行動はダークナイトドラゴンの影響で間違いないんだよな?」 「そうだね。倒さない限り落ち着かないだろう」 よく見ればダリウスも目立たないにしろ細かな怪我がある。きっと仲間を守りながら戦ったんだろう。 ダリウスの手を取る。今更になって全身が震え出す。安易な気持ちで送り出したことを後悔した。 S級冒険者という称号をもつダリウスやリアムなら、どんな相手にも絶対に負けないって過信していたんだ。だから、怪我をした姿を見てこんなにも怖くなっている。 「無事で良かったっ」 「心配させてしまったね」 逞しい腕に抱きしめられた。規則的に響く鼓動を感じて、少しずつ震えが落ち着いていく。少しだけ心配性なダリウスの気持ちがわかった。 「これからどうするんだ?」 「作戦を練ってもう一度挑む予定だよ。防御魔法を扱える冒険者を連れて行きたいのだけどね。ドラゴンの攻撃に耐えられる程の強度を持つ防御壁を作ることが出来る人物は、俺が知る限り一人しかいないんだ」 それってクリスのことなんじゃないのか。訓練場でジェイデンが俺の作った防御壁を破ることは無理だと言っていたのを思い出す。 「俺がやる」 「ツバサ?」 「俺が防御壁を作るよ。だから、ドラゴン討伐に連れて行ってくれないか」 ダリウス瞳から目をそらさず伝える。俺はいつだって助けられてばかりだ。でも、今だけは俺が皆を助けられるかもしれないって思うから。 自分の出来ることを精一杯やり切りたい。クリスがそうしたように。 「危険すぎる。それに君は魔法を使えるのかい?」 「見ててくれ」 訓練場でなんとなくコツは掴んだからいけるはずだ。 手近にある瓶に向かって手をかざすと、魔力を集中させる。手から零れ出した魔力が薄い青色に光る壁へと形作られると、瓶の外側に小さな防御壁が作れた。 「これはクリスの……」 息を飲んだダリウスが、防御壁に触れようと手を伸ばす。ジェイデンのときと同様に防御壁は手を弾き、中の瓶に触れることはできなかった。 「俺も連れていってくれるよな」 「……正直、この防御壁があればとても助かるよ」 「ならっ」 「でも駄目だ。君を危険な目にあわせたくはない。俺はもう誰も失いたくなんてないんだ」 そっと手を握られる。展開していた防御壁が弾けて光の粒子になり宙を舞う。 「ダリウス。俺は死なない」 手を握り返しながら、意思を込めて伝える。影を纏うブルーの瞳が揺れている。 確かに俺だって怖い。みんなと会えなくなるのかもしれない。ダリウスとも触れ合えなくなるかも。でも、そんなこと今考えたって仕方ないことだろ。 「俺はさ、ダリウスと穏やかに暮らしたい。ダークナイトドラゴンを倒さないとそれは無理だろ。だから、倒しに行こう」 「でも……」 「大丈夫。今回は一人じゃない。お前がいるだろ」 抱きしめてやると、ダリウスも抱き締め返してくれた。首元に顔を埋めて、無言になる。きっと沢山のことを考えてくれている。 「……わかった。ただし、無茶だけはしないと約束して欲しいんだ。ヤバいと思ったらすぐに逃げて欲しい」 「わかった」 広い背を撫でてやりながら返事をする。ダリウスをもう二度と悲しませたりなんてしない。 この戦いが終わったら伝えたいこともあるしな。

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